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25.ささやかな仕返し

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×××


「……」

閉じた瞼の向こうから、眩い光が差し込む。

逃れるように寝返りを打てば、長い横髪が頬や睫毛に掛かる。
そっと、額に触れる指先。肌の上を滑らせながらそれを退かし、横髪に絡めて耳に掛ける。

その間にも、そう長くはない髪がサラサラと滑り落ちる。


……アゲ、ハ……?

まだ幼い頃。アゲハのベッドの上で眠る僕に、アゲハはこうして頭を撫でてくれた。

それは、辛い毎日をやり過ごす中で見つけた、僕の唯一の拠り所だった──




「……さくら」


呼ばれた声に導かれ、瞳を僅かに開く。

じん…、と頭の芯が鈍く痛み、直ぐに強く瞼を閉じる。
それでも……髪に触れる手の主を確かめるべく、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

「良かった、気が付いて」
「──!」

霞んでぼんやりとする視界。想像と違う声にハッとし、瞼を大きく持ち上げる。

「……ぇ……」

そこにいたのは、裸体のまま横たわる──樫井秀孝。

カーテン越しに射し込んだ朝日を取り込み、サラサラとした髪の毛一本一本までもが宝石の如く輝きに満ち溢れている。
柔らかに微笑むその姿は、パーティー会場で見た時と同じ──煌びやかな芸能人オーラを放っていた。

「なかなか起きないから、心配したよ」

スッ……
髪を梳いた手が、僕の頬を優しく包む。と、薄く眼を閉じた樫井が唇を寄せる。

「……」

触れるだけの、軽いキス。
散々思い通りにされてきた後だからか。嫌悪すら感じない……

「ごめん。さくらが可愛くて、止められなくて……」
「……」
「身体、痛くない?」

言いながら、真っ直ぐ見つめる瞳が愛おしそうに細められる。

「……」

この人は一体、何を言っているのだろう……
アゲハの身代わりとして、散々僕を蹂躙した癖に。いまさら誤魔化そうとしたって、無駄だよ。


「……アゲハって、誰?」


そう言ってやると、樫井の笑顔が一瞬引き攣る。

「……え……」
「僕の事、ずっとそう呼んでいたから」
「……」
「アゲハって、黒アゲハの事だよね」

表情を崩さず、淡々とそう言い放つ。
別に、駆け引きをするつもりも、責め立てるつもりもない。

「そんなに好きなんだ。……僕の名前を間違えちゃう位」

ただ……ささやかながら、仕返しをしてやりたいだけ。


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