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13.
しおりを挟む……何で、僕がこんな事……
そう思いながらも腕まくりをし、集められた丸底フラスコやビーカー、試験管、ガラス管等を冷たい水で洗う。
その間に先生は、スタンドを化学準備室へと運んでいた。
「お疲れ」
全ての片付けが終わると、教師は席に着くよう促す。洗い場に近いテーブルの椅子を引いて腰を下ろせば、湯気の立つ、キャラメル色の液体が入ったビーカーを差し出される。
「……ぇ、」
ふわっと香る、甘くてほろ苦い匂い。
それだけで解る。……珈琲だ。
戸惑いながら両手で受け取ると、教師がクスクスと笑う。目尻に深い笑い皺が入り、より柔らかで優しげな印象を与えた。
「これで飲んだって事は、内緒ね」
そう言いながら、立てた人差し指を自身の唇に押し当てる。
「……」
片手で椅子を引き、先生が僕の隣に座る。もう片方の手には、湯気の立つ白無地の珈琲カップ。
中身はブラックらしい。先生からほろ苦い香りが漂う。
「……工藤は、学校嫌い?」
「え……」
「嫌いっていうか。来づらいって言った方が、いいのかな?」
首を少しだけ傾げた先生が、自身の首筋を指差す。
その瞬間、かぁっと羞恥で顔が熱くなる。そんな僕を見て、先生がまた屈託のない笑顔を浮かべた。
「噂は色々、聞いてるよ。……ヤンチャな男の子と連んだり、大学生位の男性と同伴登校したり。
その度に、新しい印が付いているのを見掛けてしまうから……きっと皆、色んな想像を掻き立てられてしまうのかもしれないね」
「……」
「真実なんてものは、その本人にしか解らない筈なのに」
「……」
突かれたくない所を突かれて、嫌な感覚が襲う。知ったような口を利かれた事で、反発心みたいな感情までもが渦巻く。
だけど……何でだろう。
薄い眼鏡の奥にある瞳には、優しげな色を含んでいて。悪意など微塵も感じられない。
柔らかく、掴み所のない不思議な空気感。それが、いつしか僕を優しく包み込み……ほんの少しだけ、息がしやすくて。次第に警戒心が解けていく。
「もし教室に居づらかったら、いつでもここにおいで」
「……」
「ね」
そう言って、まだ湯気の残るカップを持ちながら、屈託のない柔らかな笑顔を僕に見せる。
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