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脇の下に手を差し込んで僕を立たせたハルオが、当たり前のように僕の両手を包むようにして握る。


「一緒に帰ろう、さくら」


……イヤだ……
こんなの、全然望んでない。
僕は今、ハルオから離れて……平穏な毎日を、送っているんだから……

バッ──
握られた手を引っ込めれば、ハルオの顔色がサッと変わる。

「まさか……、あの男のせいか?」
「……」
「駄目だっ。アイツは、さくらが思ってるような奴じゃない!」

──ガッッ、
勢い良く二の腕を掴まれ、切羽詰まった顔が迫る。

「……いい、ちゃんと聞いて。
さくらが居なくなったあの日──俺はメモにあった番号に、電話を掛けたんだ。もしその相手がハイジなら、潔く諦めようとも思ったよ」
「……」
「でも、……全然知らない奴だった」


……え……

知らないって……
……どういう、事……


「問い詰めたら、……ほら、さくらも会った事あるだろ? 元セフレの、兄貴だったんだよ!」


「──っ、!」


瞬間、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


凌は、ハルオの友達なんかじゃなくて……

気が強い小柄な彼女の、……お兄さん、だったの……?


「弟を弄んで傷物にした挙げ句、ごみのように捨てたからって、因縁つけてきて。その上、俺から大事なさくらを──奪ったんだ!」
「……」
「このままでは危険だ。さくらまで、傷付けられるかもしれない」
「……」

二の腕を掴む手に力を籠め、ハルオが一気に捲し立てる。思い詰めた様な顔をして。必死に訴えながら。


「だから。……俺と一緒に、帰ろう」


……ハルオが、ここまで壊れているとは思わなかった。

もし僕が居なくなったら。地の果てまで捜し出して、アパートに連れ戻すのではないか。そんな恐怖に襲われ、脅える日々を送った時もあった。

……けど、全然違った。
僕の居場所を突き止めた後、ずっと監視していたんだろう。こっそり陰から。まるで、ストーカーのように。


「………凌さんは、そんな人じゃない」


凌が、僕を救ってくれたから。
もしハルオの言うように、僕を傷付けようと思っているなら、もうとっくに傷付けている筈──

「それに僕は、一度だって身売りなんかした事ない」

突っぱねるようにボソリと言い放てば、ハルオの顔がみるみる歪む。
何か、言い訳めいた事を口々に言っていたけど。もう……何も、聞きたくない。


「ごめん。……僕はもう、ハルオとは一緒に暮らせないから」


真っ直ぐ、はっきりとそう言い放てば、項垂れたハルオの顔がくしゃりと歪み、強く閉じた瞼の縁から大粒の涙が幾つも溢れ落ちた。



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