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14.変質者
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……だけど、それはすぐに打ち砕かれた。
彼に促されるまま靴を脱ぎ、通された部屋は、想像以上に広いリビングダイニングキッチン。モデルルームのような内装に圧倒される僕を、彼が革張りのL字型四人掛けソファに座らせる。
その視線の先には、洒落たローボード。52型はありそうな大きな液晶テレビ。
『……少し待ってて。
テレビでも見て、寛いでいてよ』
キッチンからドリンクを出し、中々落ち着かない僕を和ませようと彼が微笑む。
彼を見ながら静かに頷けば、安心したような優しい笑顔を残し、彼が部屋から出て行く。
それから……一向に戻ってこない。
部屋の中に時計は見当たらず、どれくらい経ったのかは解らない。幾ら緊張して感覚が鈍っているとはいえ……待たされてる時間が長すぎるように感じた。
テーブルにあるドリンクを半分程飲み、立ち上がって部屋を出る。
しんと静まり返る廊下。
片手で胸を押さえながら、玄関より遠い奥の部屋へと向かう。
人の家の中を勝手に歩き回るのは、とても緊張した。
何だか悪い事をしているみたいで。
「……」
少しだけ開いているドア。
その隙間から漏れる、灯りと人の声。
静かにドアへと近付き、そっと中を盗み見る。
『………もうそろそろ、戻らなくちゃ』
『いやぁ……お兄ちゃ……、』
『……もっと、ぎゅう……して』
『ちゅう、してぇ、……お兄ちゃぁんっ、』
『………行っちゃ、ぃやだぁ……』
異様な光景に、目を見張った。
僕よりも幼い──十才にも満たない程の男の子が十数人。ほぼ全裸の格好で、彼の元に縋りついていた。
『……ごめんね。もう少し待ってて。
いま心桜くんを、この家に連れて来ているんだよ。
昨日お話した通り……君たちより少しだけ大きいけど。大人しくていい子だからね。
……後で紹介するから。その時はみんな、仲良くしてあげてね』
『───!』
ゾクッ
背筋が、凍りつく。
指先が震え、足は竦み……
呼吸さえ、まともにできない。
僕を″弟″にしたのは
ここに連れて来たのは
全て、この為だったんだ──
『………』
息を殺し、ドアからそっと手を離す。
止まらない震え。足音を立てないよう、ゆっくり後ろへと下がる。
───変質者、だった。
僕は彼の……
一体何を信じていたのか。
何を見て、何を知っていたのか……
胸の内側から、パリンと音を立てて打ち砕かれた、純粋な想い。
粉々になったガラス片のように、そこら中に散らばって……
『……』
だけど、それを掻き集める余裕なんて無く──彼から逃げるように、マンションを飛び出す。
『蜘蛛の糸』なんて、無かった。
幻だったんだ、最初から──
あれは単なる、僕を捕食する為に張り巡らせた『蜘蛛の巣』。
彼に促されるまま靴を脱ぎ、通された部屋は、想像以上に広いリビングダイニングキッチン。モデルルームのような内装に圧倒される僕を、彼が革張りのL字型四人掛けソファに座らせる。
その視線の先には、洒落たローボード。52型はありそうな大きな液晶テレビ。
『……少し待ってて。
テレビでも見て、寛いでいてよ』
キッチンからドリンクを出し、中々落ち着かない僕を和ませようと彼が微笑む。
彼を見ながら静かに頷けば、安心したような優しい笑顔を残し、彼が部屋から出て行く。
それから……一向に戻ってこない。
部屋の中に時計は見当たらず、どれくらい経ったのかは解らない。幾ら緊張して感覚が鈍っているとはいえ……待たされてる時間が長すぎるように感じた。
テーブルにあるドリンクを半分程飲み、立ち上がって部屋を出る。
しんと静まり返る廊下。
片手で胸を押さえながら、玄関より遠い奥の部屋へと向かう。
人の家の中を勝手に歩き回るのは、とても緊張した。
何だか悪い事をしているみたいで。
「……」
少しだけ開いているドア。
その隙間から漏れる、灯りと人の声。
静かにドアへと近付き、そっと中を盗み見る。
『………もうそろそろ、戻らなくちゃ』
『いやぁ……お兄ちゃ……、』
『……もっと、ぎゅう……して』
『ちゅう、してぇ、……お兄ちゃぁんっ、』
『………行っちゃ、ぃやだぁ……』
異様な光景に、目を見張った。
僕よりも幼い──十才にも満たない程の男の子が十数人。ほぼ全裸の格好で、彼の元に縋りついていた。
『……ごめんね。もう少し待ってて。
いま心桜くんを、この家に連れて来ているんだよ。
昨日お話した通り……君たちより少しだけ大きいけど。大人しくていい子だからね。
……後で紹介するから。その時はみんな、仲良くしてあげてね』
『───!』
ゾクッ
背筋が、凍りつく。
指先が震え、足は竦み……
呼吸さえ、まともにできない。
僕を″弟″にしたのは
ここに連れて来たのは
全て、この為だったんだ──
『………』
息を殺し、ドアからそっと手を離す。
止まらない震え。足音を立てないよう、ゆっくり後ろへと下がる。
───変質者、だった。
僕は彼の……
一体何を信じていたのか。
何を見て、何を知っていたのか……
胸の内側から、パリンと音を立てて打ち砕かれた、純粋な想い。
粉々になったガラス片のように、そこら中に散らばって……
『……』
だけど、それを掻き集める余裕なんて無く──彼から逃げるように、マンションを飛び出す。
『蜘蛛の糸』なんて、無かった。
幻だったんだ、最初から──
あれは単なる、僕を捕食する為に張り巡らせた『蜘蛛の巣』。
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