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6.大事な話
しおりを挟む「──君が、一番だよ」
彼の声が、僕を簡単に引き止める。
一番──
それならどうして、僕だけを″弟″にしてくれなかったんだ……
「連絡が取れなくなって、淋しかった。
……心桜、もう一度やり直そう」
彼の手が、立ち止まった僕の両肩に置かれる。
「……」
心が、揺さぶられる。
折角……別れかけていたっていうのに。
「──無理。リベンジポルノする奴と、なんて……」
「心桜……その事なんだけど」
彼の身体が、僕との距離を詰める。
そして耳元に寄せられる、唇……
「ここでは何だから、何処か別の場所で話そう」
耳裏にかかる、熱い息。熱い身体。
背後から感じる……彼の温もり。
それらを感じる度に、身体は簡単に受け入れようとしてしまう。
「大事な話がある」
「……」
………ダメだ。
揺さぶられるな。こんなクズに。
やっとの思いで断ち切ったんだ。
絆されてついて行ったら、今度こそ……離れられなくなる。
「少しでいい。……五分だけでもいいから──」
「オイ、心桜!」
──突然。
後ろから、ガツンと頭を殴られたような衝撃が走る。
いきなり僕を怒鳴りつける声に、条件反射の如く肩が大きく跳ね上がる。
振り返ったのは、ほぼ無意識。
見れば彼も同じように振り返り、その肩越しに険しい形相の兄の顔が浮かんでいた。
「──どけっ、!」
彼を横目で睨みつけながら、兄が大股で僕に近付き、手を伸ばして乱暴に二の腕を引っ掴む。
「何してんだ。さっさと帰るぞ!」
気まずい空気。
行きとはまた違う、重苦しい車内。
家まで十分も掛からない筈なのに、やけに遠回りをしてる気がする。
「……心桜、さっきの野郎」
喉奥から絞り出すような、低い声。
肘をつき、助手席の窓の外を眺めていた僕は、その呻いた声にビクッと身体が震えた。
そっと、兄の顔をチラリと盗み見る。
「知り合いか?」
「……」
険しい表情の横顔。
目尻はつり上がり、睨みを利かせるように真っ直ぐ前を見据えている。
「………うん」
「随分と、イケ好かねぇ野郎だな」
「……」
どう反応したらいいか、解らない。
あの動画では多分、彼の顔は映っていない、筈……
……でも、もしかしたら
何か勘付かれたかも。
「お前の交友関係、どうなってんだ。あの野郎、俺より年上だろ。
……お前の何なんだ、アイツは」
「……」
「オイ、答えろっ!」
ゴッッ……
拳が飛び、僕の頭を小突く。
小突くというより、もう、殴る類の域。
これが手加減なしだから、結構痛い。
「………友達の、お兄さん……だよ」
頭を押さえ、咄嗟に嘘をつく。
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