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「……あの、さくらです……」

声が、少しだけ震える。
それまで張り詰めていたものが一気に解放され、安堵と嬉しさから……涙が溢れる。

『……あぁ、さくらちゃんか。
今、向かってる所やけど……何かあったん?』
「その……アパートに閉じ込められてしまって、……出られなくて……」
『───はァ?!』

凌が奇妙な声を上げる。
確かに。冷静に考えてみれば、変な事を口走っているのは解ってる。
一体どうやって、玄関ドアの外側に鍵を取りつけたんだろう。
……そもそも。そんな鍵なんて、本当にあるんだろうか。

『ハルオは……まだ、部屋におんのか?』
「……いえ。バイトに行きました」
『……』

しん、と静まり返る空間。
緊迫した空気が、画面越しから伝わってくる。

『……なら、今からそっち向かうわ』

返答も待たず、直ぐに切られる電話。
事務的で、冷めたような言い方に不安が募る。

……信じて、いいのかな。
もしこのまま大人しく待っていても、凌が現れなかったら──?

「……」

ふと、部屋の小窓に目が止まる。
ベランダ側の窓ではなく、斜向かいにあるその小さな窓。

……確か、こっち側は……駐輪場があった筈……

ガラッ、
引き付けられるように近付き、窓を開ける。面格子はなく、ホッと溜め息をつく。
サッシに手を掛け、下を覗き込んでみれば……細い側道の向こう側に駐輪場が見えた。

「……」

思ったより、遠い。
だけど。直ぐ下には植え込みがあ
る。

……怖い。
小枝が刺さる痛みや、手足の骨が折れるような衝撃を想像して、身体が竦む。
でも。現実的に考えて……出口は此処しかない。植え込みに落ちて助かったっていう話なら、何度か聞いた事がある。
ここに囚われ続けて、ハルオの性奴隷になる位なら……飛び降りるしかない。


玄関から、ショルダーバッグと靴を拾って再び寝室に戻る。と、パソコンの画面が立ち上がったままである事に気付く。
スタートボタンをクリックし、シャットダウンさせる。その数秒間。とても静かで、落ち着いた気持ちになる。

……きっと、大丈夫。
今なら、上手く飛び降りられそうな気がする。

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