鎖 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る2-

真田晃

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27.希望

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×××




「久し振りやなぁ!」

そっと裏門を抜けると、道を挟んだ向こう側にスポーツカーが停まっていた。運転席のドアが開き、中から現れたのは──長身黒尽くめの男。

「……」

一瞬、警戒してしまったけれど。白い歯を見せながら片手を上げるのは、間違いなく凌だった。


「さくらちゃんて、中学生やったんやな。幼顔してんやなぁ、とは思っとったんやけど……」
「……」

道を渡り車の方へと近付けば、少しだけ身を屈めた凌が僕の顔を覗き込む。
面長の顔立ち。切れ長の目。
以前会った時と同じ、ハーフアップにしたモカブラウンの長髪。無精髭は綺麗に無くなっていて、代わりにクロスチャーム付きのチェーンピアスが耳に飾られていた。

「相変わらず、可愛ぇな!」

軽い口調でそう言い放つと、口角を綺麗に持ち上げ、柔和な笑顔を見せた。





目的地も解らないまま、発進する車。迫力のあるエンジン音が響き、座席から振動が伝わる。
車内に流れるカーラジオ。助手席のシートに身体を預け、移り変わる外の景色をぼんやりと眺めていた。

「どっかで茶でもしばく? それとも、このままドライブしよか?」
「……」

視線を動かし、凌を盗み見る。
首筋の根元にあるのは、バイオハザードマークの刺青。少しだけ反社の匂いを漂わせる凌に、今更ながら警戒心が芽生えてしまう。

「にしても。……まさか、ホンマに電話してくれるとは思わんかったわ」
「………」
「こう見えて、嬉しいんやで?」

チラッと此方に眼を向けた凌と、視線がぶつかる。直ぐに外したものの、綺麗な弧を描く口の形が眼に焼き付いて、なかなか離れない。

「一応、さくらちゃん狙っとったし。制服姿も拝めて、ラッキーや!」
「……」

……嘘だ。
もし本当に狙っていたのなら、電話口で名前を告げた時、直ぐに解った筈……
自ら頼ろうとした癖に。凌の薄っぺらい台詞にひねくれて、心の中で突っぱねてしまう。

「……お、懐かしい!」

そんな僕を余所に、凌がカーラジオのボリュームを上げる。

「さくらちゃんは、この曲知っとる?」
「……」
「って。10年前に流行ったヤツやから……まだ赤ちゃんやんな!」

ずっと押し黙っている僕に気を遣ってか、ころころと話題を変えながら凌が話し掛けてくる。

「……」

一方的な会話をする状況は同じなのに。ハルオの時とは違って、……息がし易い。

ずっとハルオの重圧感に苛まれていた僕にとって、凌の軽すぎる雰囲気に……不思議と心がふわっと軽くなっていた。


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