27 / 49
27.希望
しおりを挟む×××
「久し振りやなぁ!」
そっと裏門を抜けると、道を挟んだ向こう側にスポーツカーが停まっていた。運転席のドアが開き、中から現れたのは──長身黒尽くめの男。
「……」
一瞬、警戒してしまったけれど。白い歯を見せながら片手を上げるのは、間違いなく凌だった。
「さくらちゃんて、中学生やったんやな。幼顔してんやなぁ、とは思っとったんやけど……」
「……」
道を渡り車の方へと近付けば、少しだけ身を屈めた凌が僕の顔を覗き込む。
面長の顔立ち。切れ長の目。
以前会った時と同じ、ハーフアップにしたモカブラウンの長髪。無精髭は綺麗に無くなっていて、代わりにクロスチャーム付きのチェーンピアスが耳に飾られていた。
「相変わらず、可愛ぇな!」
軽い口調でそう言い放つと、口角を綺麗に持ち上げ、柔和な笑顔を見せた。
目的地も解らないまま、発進する車。迫力のあるエンジン音が響き、座席から振動が伝わる。
車内に流れるカーラジオ。助手席のシートに身体を預け、移り変わる外の景色をぼんやりと眺めていた。
「どっかで茶でもしばく? それとも、このままドライブしよか?」
「……」
視線を動かし、凌を盗み見る。
首筋の根元にあるのは、バイオハザードマークの刺青。少しだけ反社の匂いを漂わせる凌に、今更ながら警戒心が芽生えてしまう。
「にしても。……まさか、ホンマに電話してくれるとは思わんかったわ」
「………」
「こう見えて、嬉しいんやで?」
チラッと此方に眼を向けた凌と、視線がぶつかる。直ぐに外したものの、綺麗な弧を描く口の形が眼に焼き付いて、なかなか離れない。
「一応、さくらちゃん狙っとったし。制服姿も拝めて、ラッキーや!」
「……」
……嘘だ。
もし本当に狙っていたのなら、電話口で名前を告げた時、直ぐに解った筈……
自ら頼ろうとした癖に。凌の薄っぺらい台詞に捻くれて、心の中で突っぱねてしまう。
「……お、懐かしい!」
そんな僕を余所に、凌がカーラジオのボリュームを上げる。
「さくらちゃんは、この曲知っとる?」
「……」
「って。10年前に流行ったヤツやから……まだ赤ちゃんやんな!」
ずっと押し黙っている僕に気を遣ってか、ころころと話題を変えながら凌が話し掛けてくる。
「……」
一方的な会話をする状況は同じなのに。ハルオの時とは違って、……息がし易い。
ずっとハルオの重圧感に苛まれていた僕にとって、凌の軽すぎる雰囲気に……不思議と心がふわっと軽くなっていた。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。


あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる