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しおりを挟む──電話!
その紙を拾い、生徒手帳を握り締めたまま辺りを見回す。
電話がある場所と言えば──職員室か事務室。
少しだけ迷って、玄関口まで急いで戻る。逸る気持ちを抑え、事務室の窓口を叩けば、女性の事務員がのんびりした様子で顔を出す。
「どうしました?」
「……あの。忘れ物をしたので、電話を借りてもいいですか……?」
一瞬驚いた表情を見せたその女性が、事務室の中へと招き入れる。
「……手短に、お願いね」
事務机に置かれた事務用電話機。
少し離れた場所で、黙々と作業を再開する事務員。
受話器を耳に当て、外線ボタンを押し、メモ用紙に書かれた番号を打ち込む。
プルルルル……、プルルルル……
耳元で繰り返されるコール音。
その回数が重なる度、緊張から心臓の鼓動が激しくなっていく。
『……もしもし』
鼓膜を震わせたのは──警戒するような低い声色。記憶していたものとは違っていた。
『もしもし。……お前、誰や』
「……凌、さん……?」
怖ず怖ずと、確認してみる。
……もしかして……掛け間違えた……?
受話器を握る手が震え、不安が募る。
「あの、……さくらです」
『さくらぁ?!』
覚えがないんだろう。電話越しから聞こえる声は、何処か訝しげで。僕の存在全てを否定されているようにも感じられて、一瞬怯む。
「……はい。ハルオの所に、居候させて貰ってる……」
……仕方、ないよね。
一度会っただけの、通りすがり程度の間柄なんだから……
『──おぉ、さくらちゃんかぁっ、!』
突然変わる、声のトーン。
『どないしたん? 俺の声、聞きとうなったんか?』
警戒心が簡単に取っ払われ、人懐っこい砕けた口調。
「……」
ただ、それだけで。胸のつかえが取れて……涙が零れ落ちそうになる。
ずっと、苦しくて。
……苦しくて、苦しくて。
頼れる人なんて、もうこの世にはいないと思ってたから……
「………はい」
受話器を持つ手が、声が……震える。
でも──凌は、ハルオの友人だ。
こんな事を頼んだら、嫌な顔をするかもしれない。
ふと思い出した事実に不安が襲い、キュッと喉が詰まる。
それでも。藁をも掴む思いで、喉奥から言葉を絞り出す。
「……助けて、下さい……」
根拠なんて、ない。
理由を幾ら探しても、あの時の優しい手しか思い当たらないけれど……
凌さんなら、僕を救ってくれるかもしれない──そう、心の何処かで信じている自分がいた。
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