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……もし。
もしハルオに身体を許してしまったら……どうなるんだろう。
有耶無耶なまま、ハルオの恋人になってしまうんだろうか。それとも。直ぐに飽きて、あのセフレのようにアパートから追い出すのだろうか。

「……」

目の前で、美味しそうに生姜焼きを頰張るハルオ。パソコンの動画に映っていたハルオらしき人物と重ね合わせれば、今のハルオの優しさは仮面のようで、一過性のもののように感じる。何れ僕に、泣き叫ぶ女子高生に非道い事をしていたあの男のように、本性を剥き出してくるような気がしてならない。


「さくらはさ、お兄さんいる?」

味噌汁を啜った後、ハルオが唐突に質問をする。

「……、ぅん……」
「良かった」

咄嗟に答えれば、椀を置いたハルオの唇が、綺麗な弧を描く。

「明日、さくらの学校に行こうと思うんだ。親族関係者──さくらの『兄』として」
「……え……」

……ハルオが、学校に……?
驚きすぎて、思わず声が漏れる。

「学校に、さくらを苦しめている奴がいるんだよね。その事を先生に伝えて、しっかりと対処して貰おうと思ってさ」
「……」

僕の首筋へと向けられる、ハルオの視線。
その瞬間──見えない真綿が、また少しだけ僕の首を絞める。


「……その事、だけど……」


そっと箸を手前に置き、目を伏せ、喉奥から声を絞り出す。

「僕を襲ったのは、……学校の人達じゃない……」
「……」
「ハイジと、同じチームにいた人達……だから……」

……だから、お願い。
学校にまで乗り込んで来ないで。
これ以上、僕を……縛り付けないで……


「……何だよ、それ……」


──バンッ。
ハルオの箸が、ガラステーブルの上に叩きつけられる。
一瞬にして、ピンと張り詰める空気。


「それじゃあ、……余計に危ないじゃないか……!!」


地の底を這うような、怒号。
ハルオから漂う、負のオーラ。
母が豹変した時のように、ビクンと大きく肩が跳ね上がり身体が竦む。

「明日から毎日、俺と一緒に学校へ行こう。……帰りも、迎えに行くから」
「……」
「いいね?!」

有無を言わせぬ強い口調。
その圧に押され、ハルオを見ながらこくんと小さく頷く。


「……」

……どうしよう。
またひとつ、見えない鎖が僕に掛けられてしまった……


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