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しおりを挟む「………ごめんなさい。
今日は、……学校の友達と、約束してて……」
ナイフとフォークの先を皿の縁に掛けて置き、咄嗟に嘘をつく。
こういう事には慣れていないのに。驚く程に、滑らかに言葉が零れ落ちていく。まるで口だけが、別人格になってしまったかのように。
──ガチャンッ、
「……約束……?」
瞬間。それまでの穏やかだった雰囲気が消え、ハルオの表情が強ばる。
「相手はっ、どんな奴だ──!」
眼を大きく見開き、眉間に皺を寄せ、切羽詰まった表情で斜向かいに座る僕に顔を寄せる。
「まさか、さくらを苦しめてる奴か……?!」
「……っ、」
その気迫に圧され……ハルオを見つめながら、ただ小さく頭を横に振る事しかできなくて。先程とは違って上手く言葉を返せない。
「……ダメだ」
憂苦の色が混ざった、追い詰めるような眼。その視線が、一瞬だけ僕の首筋を掠め見る。
「……」
もう、薄くなって殆ど痕の無いそこを、思わず片手で覆い隠す。
「さくらは今日、俺と一緒に過ごすんだよ」
「……」
有無を言わせない真っ直ぐな双眸。眼が細められ、柔らかな雰囲気が混じる。
「……、でも」
震えてしまう声。
意を決して出したのに、脅えているのが伝わってしまう。
でも、……ここで抗わないと、きっと次のチャンスはない。
「さくらが、心配なんだよ」
ハルオの手が伸び、首筋を隠す僕の手をそっと取って握る。
「さくらは可愛いくて、色気もあって……でも、ほら。こうして簡単に手が握れてしまうほど、無防備で……」
「……」
「心配なんだよ。もし騙されて、襲われでもしたら──」
「………そんな事っ、!」
耐えかねて、手を引っ込める。
「そんな事、ある訳ない……」
……僕が、可愛い? 色気がある?
そんな訳ない。もしハルオがそう思っていたとしても、皆がみんなそうじゃない……
「どうしてそう言い切れるんだ?
……その友達は、さくらを邪な目で見ていないと言い切れるのかい?」
「……」
思い詰めた様に眉間に皺を寄せたハルオが、顔に陰を落とす。
「もし、それでも会うというなら……ソイツをここに連れてきてくれないか」
「……ぇ……」
「直接会って、信用できる相手かどうか、俺が見極めるから」
「……」
何で……
どうしてそこまで……
物哀しげに微笑むハルオが、僕に迫る。
再び僕の手を掴み、指を絡めた恋人繋ぎにして。
「……わかった」
ハルオの視線から逃れるように、俯く。
「何処にも、出掛けない……」
僕はもう……ハルオという牢獄から抜けられない。
僕に与えられる自由なんて、……もう、ないんだ……
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