上 下
16 / 49

16.

しおりを挟む


……そんな訳、ないよね。

だってハルオは、ゲイで。女性をレイプして楽しむような人なんかじゃない。
そう、心の中で自己解決させようとするけど……そこまでハルオを知っている訳じゃない事に気付かされる。

「……」

もし、このビデオの撮影者がハルオだったら……どうしよう。
ハルオが、卑劣な事をする人だったら──

胸が苦しくなり、浅くなる呼吸。
背筋に悪寒が走り、全身が小さく戦慄く。

「……」

……カチッ
流れる映像をそっと閉じ、全てを元通りにする。
だけど。一度知ってしまった事実まで、無かった事にはできそうになかった。







「……ただいま」

ハルオの声が聞こえて、ハッと我に返る。
何時から動けずにいたんだろう。気付けば僕は、真っ暗な寝室の床に尻餅を付いていた。

「さくら?」

遠くから聞こえる、不穏な声。
顔を上げてノートパソコンを見れば、充電が切れたのか、それともオートオフでも設定していたのか。画面は真っ暗になっていた。

「──さくらっ!」

リビングの電気が点き、バタバタと慌てた足音が近付く。
半分程開いたドアへと顔を向ければ、その隙間から人影が差す。


「……良かった」


安堵の溜め息。
ドアの入口に立つハルオが、床に座っている僕を見下ろしていた。逆光のせいで、その表情はよく見えない。

「部屋が暗いから、心配したよ……」

ビクッ……
本能的に震えてしまう身体。
一歩。薄闇に踏み込み僕との距離を詰めるハルオの姿が、映像の中の男性と重なる。

「……どうしたの? 学校で、何かあった?」

心配そうに見つめながら、一歩また一歩とハルオが距離を詰める。

「……何でも、ない」

やっと出せた声は、随分と小さくて、酷く掠れてしまった。
それでも。警戒しながら、近付くハルオをじっと見つめる。


「何でもなくは、ないよね」


寂しそうにそう呟きながら、見下ろすハルオ。顔に陰が掛かっているのに、眼だけがギラギラと光って見える。

スッ──
僕の前に膝を付き、目線の高さを合わせる。

「ほら、ちゃんと言ってごらん」
「……」

動けず、脅え震える僕に、両手を伸ばして抱き締める。
その瞬間──女性の口に布を詰め込み、カメラを構える男性の映像が頭の中のスクリーンに映し出される。


「……やめて……」


ぎゅっと目を瞑り、ハルオの手が、僕の後頭部に触れようとするのを全身で拒む。

「……」

ずっと一緒に暮らしてきて、こんなにハルオを怖いと思った事なんて……無い。
全身が、ぶるぶると戦慄く。
喉が締まって、上手く呼吸ができない……

「怖がらないで。……さくらには、俺がついてるから」

くしゃ……
後ろ髪に差し入れられる、ハルオの指。後頭部を包み込まれ、ハルオの肩口へと誘導される。

「俺がずっと、守ってあげるよ」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の堕とし方

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:57

Bro.

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:12

不器用な初恋を純白に捧ぐ

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:148

【R18】劣等感×無秩序×無関心

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:35

幼馴染みとアオハル恋事情

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:143

無垢な少年

BL / 連載中 24h.ポイント:816pt お気に入り:123

聖女様の推しが僕だった

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:91

[完結]兄さんと僕

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:27

神の子のつくりかた

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:74

処理中です...