鎖 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る2-

真田晃

文字の大きさ
上 下
13 / 49

13.

しおりを挟む


全ての感覚が、おかしい。
身体の深部が寒くなり、全身が戦慄き、手足の先端が痺れて立っていられない。

ザァ──ッ
無感情の指が、引き抜かれる。
次に襲うだろう痛みに耐えようと、指先に力を籠め、ギュッと目を瞑る。


『……!』

ザァァ──ッ、


……え……

項に当てられる、シャワー。
まるで飼い猫を洗うかのように、僕の後頭部をくしゃくしゃとしながら。

『……チッ、濡れちまった』

独りごちた竜一が蛇口を閉め、シャワーヘッドをホルダーに戻す。
壁に手を付いたまま怖ず怖ずと振り返れば、濡れたワイシャツのボタンを全て外した竜一が前を開ける。


……ドクン……


露わになる、引き締まった身体。逞しい筋肉。


ドクン、ドクン、ドクン……

高鳴る胸に蘇る──初めてを奪われた時の感情。背後から、優しく包み込むような温もりと心地良さ。重ねた心音と心音。

心と心が触れ合って、ひとつになったような、……あの感覚が忘れられない。

もう一度、感じてみたい。
その腕の中に、僕を包んで欲しい。

……そう、思っていたのに。


ガチャン、
何も言わず、僕を置いて出ていってしまった。


『……』

結局竜一は、何がしたかったんだろう……
片手を壁に付いたまま、小さく溜め息をつく。

次第に蘇る、末端の感覚。
逆上せたような感覚と、頭の芯に痛みが残っているけど。先程まで腹を圧迫していた気持ち悪さが、無くなっている事に気付く。

……まさか……
それだけの為に、僕をここへ……?

『……』

竜一の優しさが垣間見え、どうしようもなく胸が昂ってしまう。



「……」

──だけど、違った。
竜一が僕を構ったのは、ただの気まぐれ。
単に僕が、アゲハの弟だからだ──

鼻で大きく息を吸い、ゆっくりと口から吐き出して、瞼を閉じる。



淡い期待を胸に、濡れた髪のまま部屋へと戻れば、窓辺に佇む竜一が、何処かに電話をしていた。

『……ああ、頼む』

電話を切った竜一が、僕に気付いて僅かに振り返る。向けられたのは、ビー玉のような冷たい眼。

『帰れ』

少し厚めの唇が、無情な言葉を放つ。

『下にタクシーを待たせてある。金なら心配要らねぇ』
『……』
『さっさと帰れ!』

躊躇する僕をはね除け、声を荒げる竜一。先程まで垣間見えた優しさは跡形もなく消え、冷酷な視線で僕を威圧する。

『……もう二度と、こっちの世界アンダーグラウンドへ戻ってくるんじゃねぇ』



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...