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13.
しおりを挟む全ての感覚が、おかしい。
身体の深部が寒くなり、全身が戦慄き、手足の先端が痺れて立っていられない。
ザァ──ッ
無感情の指が、引き抜かれる。
次に襲うだろう痛みに耐えようと、指先に力を籠め、ギュッと目を瞑る。
『……!』
ザァァ──ッ、
……え……
項に当てられる、シャワー。
まるで飼い猫を洗うかのように、僕の後頭部をくしゃくしゃとしながら。
『……チッ、濡れちまった』
独りごちた竜一が蛇口を閉め、シャワーヘッドをホルダーに戻す。
壁に手を付いたまま怖ず怖ずと振り返れば、濡れたワイシャツのボタンを全て外した竜一が前を開ける。
……ドクン……
露わになる、引き締まった身体。逞しい筋肉。
ドクン、ドクン、ドクン……
高鳴る胸に蘇る──初めてを奪われた時の感情。背後から、優しく包み込むような温もりと心地良さ。重ねた心音と心音。
心と心が触れ合って、ひとつになったような、……あの感覚が忘れられない。
もう一度、感じてみたい。
その腕の中に、僕を包んで欲しい。
……そう、思っていたのに。
ガチャン、
何も言わず、僕を置いて出ていってしまった。
『……』
結局竜一は、何がしたかったんだろう……
片手を壁に付いたまま、小さく溜め息をつく。
次第に蘇る、末端の感覚。
逆上せたような感覚と、頭の芯に痛みが残っているけど。先程まで腹を圧迫していた気持ち悪さが、無くなっている事に気付く。
……まさか……
それだけの為に、僕をここへ……?
『……』
竜一の優しさが垣間見え、どうしようもなく胸が昂ってしまう。
「……」
──だけど、違った。
竜一が僕を構ったのは、ただの気まぐれ。
単に僕が、アゲハの弟だからだ──
鼻で大きく息を吸い、ゆっくりと口から吐き出して、瞼を閉じる。
淡い期待を胸に、濡れた髪のまま部屋へと戻れば、窓辺に佇む竜一が、何処かに電話をしていた。
『……ああ、頼む』
電話を切った竜一が、僕に気付いて僅かに振り返る。向けられたのは、ビー玉のような冷たい眼。
『帰れ』
少し厚めの唇が、無情な言葉を放つ。
『下にタクシーを待たせてある。金なら心配要らねぇ』
『……』
『さっさと帰れ!』
躊躇する僕をはね除け、声を荒げる竜一。先程まで垣間見えた優しさは跡形もなく消え、冷酷な視線で僕を威圧する。
『……もう二度と、こっちの世界へ戻ってくるんじゃねぇ』
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