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11.喪失
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昼下がりの保健室。
ふかふかのベッドに入り、目を瞑る。
窓の外から聞こえる、生徒達の燥ぐ声。体育教師が大声を上げた後に鳴る笛の音。
事件に遭ってから、約二週間。首筋の鬱血痕は消えつつあるけれど、まだ人前で着替えるのは怖くて。こうして今日も、体育の授業をサボっている。
──ガラッ
突然ドアが開き、女性の笑い声と共に二つの足音が近付く。
「……あー、先生いない」
「丁度いいじゃん。ちょっとサボろうよ」
「絆創膏どこ?」
「あー、多分引き出しじゃね?」
薬品棚の前にある丸椅子に座る音が聞こえた。
「……あ、あった!」
「貼ろうか?」
「よろしく頼む」
レールカーテンの向こうで繰り広げられる二人の他愛ない会話を聞きながら、一度開けてしまった目を再び閉じる。
最近は、ここで睡眠時間を補っている気がする。
ハルオにキスをされそうになってから、中々寝付けなくなって。やっと眠れたとしても、疲れが取れないまま早朝を迎えるようになってしまっていた。
「あ、そういえばさぁ。麻里子が撮った動画、見たぁ?!」
「……え、何それ」
「ハロウィンの仮装行列で、なんと! ホスト姿のアゲハ王子がぁ、他のキャスト達を引き連れて歩いてる所に遭遇して、近くでバッチリ撮ったんだって!!」
「えぇー、何それ見たいっ!!」
──アゲハ。
その単語を耳にした瞬間──二人の声が遠退き、ハロウィンで賑わう街の喧騒と、煌びやかなアゲハの姿に喪心したあの日の出来事が脳裏に蘇る。
ざわざわ、ざわざわ……
『……立てるか?』
いつの間にいたんだろう竜一が、僕の傍らに立ち、僕を見下ろす。
アゲハとは違い、集団レイプに遭ってボロ切れのように捨てられた僕を……片手で掬い上げて、僕を抱き締め──
『……俺は、アゲハが嫌いだ』
そう言った唇が舞い降り、僕の唇を塞ぐ。
「……」
竜一は、アゲハの友人であり、僕の初めてを強引に奪った人。
乱暴にされたけれど。重ねた心音が、包み込む温もりが優しくて。陽だまりのように心地良くて。
忘れられない……僕の初恋の人。
その竜一が、アゲハではなく僕を選んでくれたんだと、その時までは思っていたのに──
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