1 / 49
1.トラウマ
しおりを挟む×××
色濃い桜の花弁が、僕の首筋に幾重にも舞い散っている。
隠そうにも隠せないし、そもそも隠すつもりもない。
不良グループのリーダーであり、僕の恋人であるハイジが刻んでくれた時から、もうずっと隠していない。
容姿端麗でカリスマ性のある兄──工藤アゲハは、ホストに転身した今でも変わらず人気が高い。
一方。弟の僕は、不良と連むヤリチン野郎との噂が流れ、王子の面汚しだと陰口を叩かれていた。
実際こうして鬱血痕を隠さないのだから、噂は勝手に悪い方へと転がっていく。中には、僕がパパ活して荒稼ぎしている……なんて噂もあるから、笑ってしまう。
……別に。
誰が何て言おうが、僕には関係ない。
本当の事なんて、当の本人にしか解らないんだから。
ざわめく教室を抜け、廊下に出る。端で固まって駄弁る生徒達。その横を通り過ぎると、手洗い場の傍にある小窓が目に付く。
近付いてそっと開ければ……冷たい風が吹きつけ、僕の頬や首筋の熱を簡単に奪っていく。
──集団レイプ。
その言葉だけで、身体が勝手に震えてしまう。
ヤクザのリュウからの指示で、一時的にハイジがチームから離れると、副リーダー的存在の太一が、仲間と共に僕を襲った。
溜まり場に監禁され、皆の公衆便所にされるかもしれなかった状況からは抜け出せたものの……今も、あの時の片鱗が思い出されると、吐き気を催す。
そんな僕を、太一は繁華街の裏路地に捨てた。
表通りに出れば、煌びやかな夜のネオン街を、仲間のホストを引き連れて練り歩くアゲハの姿があった。その麗しい姿に魅力されながらも……情けなく惨めな姿に成り下がった僕は、ただ妬む事しか出来なかった。
結局、何も変わらない。
僕が汚れようが汚れまいが、アゲハには敵わないんだ。
何一つ──
ぶるっと身体が震え、そっと窓を閉める。
何処に行く宛もなく、人気の無い渡り廊下の方へと足先を向ける。
「……姫!」
その刹那、背後から僕を呼び止める声がした。
ピクンと跳ね上がる肩。竦む両足。何処となくその声が、集団レイブの首謀者──太一に似ていて。
息を止め、警戒しながらゆっくりと振り返る。
ざわざわ、ざわざわ……
廊下を行き交う生徒。
端の方で固まり、駄弁る生徒。
燥ぎながら廊下に飛び出す生徒。
その中に、それらしい人物は見当たらない。
「……」
安堵の溜め息をつくものの、未だに消えないトラウマ。
心臓が暴れ、呼吸は乱れ、冷えたように……指先の震えが止まらない。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。


あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる