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しおりを挟むざわざわざわ……
耳奥に戻ってくる、カフェ内の喧騒。
「……」
あの時の僕は、突然変わってしまった空気をどうにかしたくて……
自分の気持ちに向き合わず、樹の言葉を確かめようともしなかった。
多分、怖かったんだ。
越えてはいけない一線を越えてしまったら……もう後戻り、出来なくなってしまいそうで──
「で、愛月の方はどうなんだよ。
……愛咲から逆プロポーズ、されたんだろ?」
「……」
カラン、と溶けた氷が動く。
その隙間を通り抜け、炭酸の気泡が水面へと立ち上り、しゅわしゅわと音を立てる。
僕の様子を気に止めず、目の前でぺらぺらとよく喋る東生みたいに。
「すんのか? 結婚」
「……何でそうなんの?」
口元だけで笑い、東生に冷たく返す。
また色々と口を挟んで、自分の思い通りにしようとする訳?
──どんだけお節介なんだよ。
確かに。真奈美が妊娠して、樹からプロポーズされたって聞いた愛咲が「私も!」って、僕に迫ってはきたよ。
でも、それだけ。
……そもそも付き合ってもないし。結婚とか、有り得ないだろ。
写真から視線を外して東生を見上げれば、いつになく真剣な顔の東生が、僕を見据えていた。
「──実を言うとさ。
俺、今でも好きなんだよ。……愛咲の事が」
「……」
東生の告白に、僅かに瞼が持ち上がる。
だったら、何で……あんな事したんだよ──
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