流刑島、運命の番

真田晃

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その汚い手が、僕の薄い尻を掴んで揉みしだく。

「……な、何す……!」
「ヘヘヘ……いいケツしてんなぁ」

かぁっと顔が熱くなり、その手の主……ガタイのいい囚人が横たわるベッドから、一歩大きく後退った。


この男は強制労働中に足を怪我し、今や一日中ベッドの上での療養生活を送っている。
それが、死ぬ程退屈なのだろう。


「あぁ、……ヤりてぇ。
コイツをナニにぶっ込んで、滅茶苦茶に掻き回してぇ……」

うわごとの様にぼやく内容は、下品極まりない。

それを努めて冷静に聞き流し、カルテを胸に抱えると、逃げるように病室を飛び出した。




──ここは、日本保有の小さな離島。
本土から随分と離れた所にあるらしい。
その為、輸送船が入港するのは隔週一回のみ。
入って来るのは生活必需品等の物品ばかりで、観光客や移住を希望する一般人はいない。


何故ならここは『流刑島』だからだ。


開拓移民しかいなかったこの島に、監獄が建てられたのは今から十年前。
本土から囚人が送られてくるとあって、恐れを成した島民の殆どが本土へと引き上げてしまった。
今や囚人の数は、島民の数を優に超えてしまっている。




医務室へ戻り後ろ手でドアを閉めると、大きな溜め息をつく。

「おやおや」

部屋の奥から、白衣姿の横峯が現れる。
年は四十代半ば。
物腰は柔らかく落ち着いていて、優しさの滲み出る瞳には、憂いを含んだ大人の色気が孕んでいた。

「……どうしたの?」
「いえ、いつもの事です……」

二度目となる溜め息をつくと、横峯の唇か弧を描き、穏やかな微笑を見せる。

「それは大変だったね。……珈琲でも飲むかい?」

僕の返事も聞かず、白衣の裾を翻して部屋の奥へと行ってしまう。
慌ててその背中を追い掛ければ、行き着いたのは備え付けの小さな給湯室。


シンク横には、挽いた珈琲豆。
ペーパーフィルター。ドリッパー。サーバー。
ヤカンに火をかけ、棚から取り出した僕のコーヒーカップを丁寧に温めてくれる。



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