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しおりを挟む「花火大会の日くらい、僕の為に空けといてよね……」
淋しさから漏れた僕の言葉は、畳の上で横になる大地に届かない。
浅黒い肌、太い腕、逞しい背中。
肉体労働で疲れたのだろう。
夕食を食べた後直ぐに眠ってしまった。
ここ最近は、本業のカメラの仕事も舞い込み、大地に休日などはない。
働く大変さは、理解してるつもり……
けど、まだ高校生の僕は……多分解ってない。
だから、こんな台詞が簡単に口から飛び出してしまうんだろう……
「……ゆ、浴衣、…着てあげる、から……」
手にしていた大地のスマホをテーブルに置き、逞しい背中に身を擦り寄せて耳元で囁く。
すると大地がもぞっと動き、僕の方へと身を返すと、瞳を閉じたまま僕の背中に腕を回す。
瞬間、大地の肌の熱が伝わり、汗臭さと共に煙草と大地自身の匂いに包まれる。
「……わかった、空けとく」
低くて甘い、大地の少し掠れた声──それが、僕の鼓膜を優しく擽った。
奥二重の大きな目、筋の通った形の良い鼻、少し厚めのセクシーな唇。
顎のラインがすっきりとした面長に、ベリーショートの黒髪。
その顔が間近にあり、不覚にもドクンッと胸が高鳴る。
……あ、
僕の背中にあった大地の手が、僕の後頭部へと移る。
そして、少し襟足の長い僕の髪を指に絡ませ、愛しそうに梳く。
「……玲央」
僕の鼻先にかかる、大地の吐息。
期待に気持ちが昂ぶり、顔が熱くなっていく……
……ん、
少し開かれた大地の唇が此方に迫り……柔く瞼を閉じる。
……大地……
トクトクと心臓が速く打ち
指先が痺れる…
期待に胸を膨らませ、顎を少しだけ突き出す。
「………」
……すー、すー、
静かに聞こえる寝息。
と同時に、僕に触れていた大地の手が外れる。
瞼を少しだけ持ち上げると、大地の意識はもう別世界へと旅立っていた。
「……っ!……大地のばかっ!!」
そう言い放ち、眉尻を吊り上げた僕は、さっと大地から身を離した。
……もう、知らない。
大地の、バカ……
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