飼い殺しの犬

真田晃

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ドクンッ──


喉が、渇く。
舌の裏に残った僅かな唾液が、粘質を持って滑る。

震える手を伸ばし、布の端を掴む。
剥ごうとするものの……上手く、指が動いてくれない。


……まさか……

まさか……


「………ゆず、き……?」


そこにあったのは
眠った様な顔の、柚希──


「……」


……なん……で……

何でだよ。

……何で柚希が、殺されなくちゃならないんだよ……!



──包丁。

そうか。
止めようとした柚希を、先輩が……


「俺は、殺してねぇよ」


見上げた僕に、先輩が冷静な声で否定する。




「キングの登場で、ピンときたんだろうな。……迂闊だった」


女が帰ると騒ぐ、少し前。つまり、僕がパシられて合宿所を出た直後──キングが、降臨した。

『良く見ると、……ブスだな』

キングは、ひと目見た女性二人を足蹴にし、冷えた唐揚げをつまみ食いする。
美味そうなのは、こっちだと言わんばかりに。

その唐揚げが、予想以上に美味かったのだろうか。
台所へと向けたキングの目に映ったのは、健気に後片付けをする、柚希の姿。
その前に立ち、柚希を値踏みをした後、キングは無言で彼女の手を引き、奥の部屋へと消えていった。


「……まぁ、やる事といったら、アレしかねぇだろ。

その間に、俺らはひと悶着あって……
で、コイツを刺しちまった後、木下や他の幹部候補全員に凶器を渡して、瀕死状態の奴が死ぬまで、一人ずつ順番に突き刺すよう……お願いしたんだ。

やらなきゃ、レイプ映像をネットに流すって言ったら、みんな素直に従ってくれてさ……」

「……」

脳の奥で響く、細くて高い不協和音。
耳鳴りのようなそれが、僕の理性を壊そうと劈く。


「で。掘る元気がありそうなコイツらをここに運んで……戻って来た所で、丁度キングが部屋から出てきてな。

『クスリ打っといたから、大人しいうちにヤッていいぜ』って、言ってきてよ……」

「……」


……それは、つまり……
柚希を払い下げた……って事か。


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