飼い殺しの犬

真田晃

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「──んで? その柚希ちゃんは?」

神妙な面持ちながら軽い溜め息をついた山下が、僕に無粋な質問をする。

「………」

じわじわと痺れていく、脳内。
……嫌だ、思い出したくない。

だけど──あの時の光景は、忘れたくても忘れられない……
この目に、強く焼き付いてしまっているのだから。




別荘から海岸までは、僅か五分。
だけど、近くの商店までは急いでも片道十分はかかる。

しかも、遅い時間。空いている保証はない。


「……」

やっぱりだ。シャッターが閉まっている。
叩いて店主を呼び出そうか。
いや、こっちはギリギリ未成年だ。下手に騒いで年齢を聞かれたら困る。

……確か、この先に廃れたスーパーがあったような──


点々と、等間隔に続く外灯。
暗闇へと誘う灯火。


……兎に角、早く買って帰ろう。

走ったせいで体が火照り、大量に噴き出す汗。
額のそれを腕で拭い、闇夜に向かって地面を蹴った。



運良く、スーパーに辿り着くよりも先に、小さな酒屋を見つける。
店主に怪しまれないよう500mlの缶ビール12本を買い、泡立たぬよう注意しながら急いで別荘に戻った。

「……」

玄関を開け、直ぐに感じる違和感。
しん……と静まり返る室内。

あの女性二人を、輪姦しているのか……?
いや、それにしては静かだ。

次第に高まる胸騒ぎ。
……ダメだ、悪い方にしか考えられない。


「戻りました!」

玄関を上がり、襖を開ける。
と、そこには絶望しきった顔の渡瀬先輩が、テーブル前に腰を下ろしていた。

「………ああ、柚木か。お前も手伝え」

虚ろな眼。視線が何処に向けられているのか、解らない。
いつもの威勢の良さも、声の張りもない。

「はい……」

徐に立ち上がった先輩の後に続いて歩く。廊下を出て奥へと進み、寝室部屋へと入る。

中は暗かった。
木下先輩と幹部候補の二人が、何やら大きなものを布で包んでいる。

「俺と柚木で行ってくる」

低いトーンでそう言った渡瀬先輩の言葉に、三人はビクンッと体を震わせた。

「……ゆず、き」
「お前ら、しっかりしろ!」

それまでの渡瀬先輩が嘘のように、いつものように声を張り上げる。

「行くぞ!」
「はい」




見た事もない車。
そのトランクに、大きな荷物を二つ載せる。

……もしかして、これは……

考えたくない。
だけど、考えずにはいられない。

助手席に乗り、先輩の運転で夜道を走る。

先輩、飲酒運転ですよ。
そんな事、口が裂けても言えない雰囲気。
妙にギラギラとして、妙に落ち着いた渡瀬先輩が……怖い。怖くて堪らない。

車は山道へと入り、真っ暗な林道を走る。

不気味な程に生い茂る草木。
闇、闇、闇──


「柚木」

突然、先輩が口を開いた。

「はい」
「もう、勘づいてんだろ?」

何て答えればいい。
躊躇すれば、先輩が少しだけ余裕のある溜め息をついた。

「お前が出てった後、連れ込んだ女が帰るって言い出してよ……」
「………」
「ちょっとな。揉めたんだよ。
……木下のヤツ、あの女に騙されて玄関先まで逃しやがって。
まぁ他の奴らに捕まえさせたんだけどな」
「……」

つまり、女性と木下先輩の三人になる場面があった……って事か。

「そん時知らねえ男が一人乗り込んできて……そっからひと悶着あってよ。
……ああ、クソ!!」

ドンッ

先輩がハンドルを強く叩く。

「………ソイツを縛って、目の前で女をレイプして……最後にソイツのおっ立ったナニを女に突っ込んで、イかせて……口止めさせようとしたんだよ」

先輩を取り巻く空気が荒々しくなり、気迫に満ちる。
ハンドルを切ったかと思うと、突然の急ブレーキ。


「着いたぞ」
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