1 / 8
1
しおりを挟む
何処に行く宛もない。
ただ、死に場所を探すだけ……
車のハンドルを握る:真翔(まさと)は、助手席で静かに座る高校生、:凛(りん)をチラリと見た。
家に帰っていないのだろう。
小柄な彼は、大きめの夏用半袖スクールシャツに着られ、車を走らせてからずっと、車窓の外に広がる深い闇をぼんやりと見つめている。
「……」
「……」
二人の間に会話は無い。
今から一時間程前。
待ち合わせ場所で初対面し、そこで確認の為にお互い下の名前を言ったきりである。
『逝きたい』とネット上で呟いた真翔に反応した凛が『僕もです』とコメントし、繋がっただけの薄い仲だ。
何故死にたいのか、お互い理由は知らない。
聞くのは野暮、というものである。
車内の空調が嫌という程効き、夏にも関わらず肌寒い。湿度も落ちているせいか、先程からやたらと喉が渇いて張り付く。
少し咳払いをし、カップホルダーにある缶コーヒーを手に取ると、真翔はゴクゴクと喉を鳴らした。
その様子に気付いた凛が、つられて手にしていたペットボトルのお茶を口にする。
その同調に、少しだけ緊迫した空気が緩んだような気がした真翔は、オーディオに手を伸ばしラジオを繋ぐ。
「……」
スピーカーから流れたのは、テンポの良い邦楽。
少し首を傾け真翔へと瞳を向けた凛が、睨みつける様に冷たい視線を送る。
これから死ぬという人間が、何を悠長に音楽など聴こうとしているのか……
そう、訴えている様だった。
その視線に責め立てられた真翔は、直ぐに音を消す。
「……」
再び車内に静寂が戻ると、凛は先程と同様に車外を眺めた。
ただ一緒に死ぬだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
二人を乗せた車は、この二人の終末へと向かい──深い闇の中を、ただひたすら走り続ける。
ただ、死に場所を探すだけ……
車のハンドルを握る:真翔(まさと)は、助手席で静かに座る高校生、:凛(りん)をチラリと見た。
家に帰っていないのだろう。
小柄な彼は、大きめの夏用半袖スクールシャツに着られ、車を走らせてからずっと、車窓の外に広がる深い闇をぼんやりと見つめている。
「……」
「……」
二人の間に会話は無い。
今から一時間程前。
待ち合わせ場所で初対面し、そこで確認の為にお互い下の名前を言ったきりである。
『逝きたい』とネット上で呟いた真翔に反応した凛が『僕もです』とコメントし、繋がっただけの薄い仲だ。
何故死にたいのか、お互い理由は知らない。
聞くのは野暮、というものである。
車内の空調が嫌という程効き、夏にも関わらず肌寒い。湿度も落ちているせいか、先程からやたらと喉が渇いて張り付く。
少し咳払いをし、カップホルダーにある缶コーヒーを手に取ると、真翔はゴクゴクと喉を鳴らした。
その様子に気付いた凛が、つられて手にしていたペットボトルのお茶を口にする。
その同調に、少しだけ緊迫した空気が緩んだような気がした真翔は、オーディオに手を伸ばしラジオを繋ぐ。
「……」
スピーカーから流れたのは、テンポの良い邦楽。
少し首を傾け真翔へと瞳を向けた凛が、睨みつける様に冷たい視線を送る。
これから死ぬという人間が、何を悠長に音楽など聴こうとしているのか……
そう、訴えている様だった。
その視線に責め立てられた真翔は、直ぐに音を消す。
「……」
再び車内に静寂が戻ると、凛は先程と同様に車外を眺めた。
ただ一緒に死ぬだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
二人を乗せた車は、この二人の終末へと向かい──深い闇の中を、ただひたすら走り続ける。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
結蜾-ゆら-めく夏
真田晃
BL
透明硝子の中でしか生きられない琉金は──
ただの見世物
色欲の玩具
逃げ出せる事も出来ず
一人寂しく、泳ぎ続ける……
人攫いに遭い遊郭に売られた僕は、結螺(ゆら)という名の遊男となった。
江戸時代の吉原と陰間を参考にし、想像をかなり織り交ぜたファンタジーとなっています。
2018年 サマーナイトコンテスト応募の為執筆
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる