結蜾-ゆら-めく夏

真田晃

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夏祭りの夜

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大部屋に移り、二週間が経ったある日──
この遊郭街にも、夏祭りが開催される運びとなった。

今日ばかりは大門通りに出店が立ち並び、遊男達も馴染みの客とお祭りに行きたいと、朝から浮ついている。
花魁以上になればそう簡単に部屋から出られない為、この時ばかりは『下級遊男で良かった』と、大部屋に集まっている遊男達が大声で談笑していた。


「……そう言えば、さっき龍次が新しい子を連れて、楼内を案内していたよ」
「へぇ。龍次も大変だねぇ。……何もこの忙しい時に、売られに来なくても、ねぇ……」


祭りとなると、どさくさに紛れて抜け出そうとする遊男が後を絶たない。
それを見張るのは、数人の若い衆と遣り手である龍次の仕事。
そんな中、新人の遊男が来たとなれば、その世話にも追われる事になる。


「結螺は今夜、お祭りに行けそう?」

大部屋に移ってから、唯一僕に親しくしてくれる夕凪から声を掛けられる。

「……あ、えっと……」

無垢な笑顔の夕凪から視線を逸らし、言葉を濁す。


僕にはまだ、馴染みの客が一人もいない。

以前龍次が言った通り、感じすぎて直ぐにイッてしまう上に、手練手管が苦手な僕は、客にとってつまらない、銭を払う価値などない遊男だ。
朝まで一緒に……なんて客はいないし、声すら掛からない日も珍しくない。


「夕凪は?」
「昨夜、約束してくれたから……多分、行けると思う」
「そっか。良かったね」


……お祭り、か……


もし榊様が通い詰めていた頃だったら……
きっと僕を連れ出して、一緒に金魚掬いなどしてくれただろうな……


そんな虚しい空想をしていれば、龍次に預けた琉金が脳裏を過り、一目見たくなってしまった。






龍次の部屋──
忙しいからきっと、今はいないだろう。
……そっと、覗いて見るだけ……

それでも一応、念のために声を掛ける。


「……龍次、いる……?」

障子戸に手を掛け、怖ず怖ずと引いた。


──え、


部屋の中の光景が、一瞬で目に飛び込む。
想像していなかったそれに、僕は目を見開いて声を失った。


裸になった龍次が、布団に組み敷いた遊男に、本番行為をしていたのだ。


「……出て行けっ!」


眉を吊り上げ、険しい顔付きになった龍次が僕を睨みつける。
その迫力に圧され──僕は、弾かれた様にそっと障子を閉めた。


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