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榊様
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しおりを挟む「意地悪で結構だ」
龍次の手が、僕の頭をそっと撫でる。
見上げて見れば、そこに先程の冷笑は無く。何処か優しさを滲ませた視線とぶつかる。
「……」
あれだけキツい事を言っておきながら……
急に優しくするなんて……ズルい。
涙腺が簡単に緩み、熱くなった瞳の縁から大粒の涙がポロポロ零れ落ちる。
──チリンッ
緩い風が吹き、僕と龍次の頬を優しく撫でた。
底の丸い小さな金魚鉢の中にいる琉金が、腰を小刻みに揺らし、尾に付く綺麗な羽衣をゆらゆらと揺らめかせる。
「……龍次」
零れた涙をそのままに、畳に手を付いてその金魚を上から見下ろす。
「……ん?」
そう答えた龍次の声は、やはりいつもと違って優しさが滲む。
来て早々に部屋持ちとなった僕は、他の遊男から妬まれ、あからさまな態度を取られている。
もし大部屋に移った時にこれを持っていったら、何をされるか解らない──
「これ、龍次に貰って欲しいんだけど……」
寂しげに、鉢の中を泳ぐ琉金。
遊郭の中でしか生きられない、僕と同じ……
それを感じさせず、『僕を見て』とばかりに龍次の方へと顔を向ける。
「……悪ぃが、それはできねぇ」
腕組みをした龍次の口から、無情な言葉が吐かれる。
「……え」
愕然とし、瞬きも忘れ、幽閉された金魚に視線を落とす。
「──それなら、川に」
流して……
そう続けようとした僕の言葉に被せ、龍次が僕の名を呼ぶ。
「結螺!」
それに驚いて、弾かれたように顔を上げる。
「……暫く、預かっててやるよ」
瞳に優しさを宿し、今まで見た事のない優美な微笑みを浮かべる龍次。
それはまるで、花魁のような気品溢れた色気を纏っていて……
一瞬で、心を鷲掴みにされてしまった。
……龍次……
僕の様子に気付いた龍次は、直ぐにいつもの顔に戻り、ニヤリと冷笑する。
「その代わり。……こいつが生きてるうちに返せるよう、早く部屋持ちの遊男になるんだな」
「……!」
龍次から顔を逸し、熱くなった頬をぷぅと膨らませると、唇を尖らせる。
……やっぱり龍次は、意地悪だ。
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