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第四章 永遠の凍雨

対面

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×××

築30年は経っているだろう、年季の入った古いアパート。壁や手摺りなど、至る所の塗装が剥げ、薄汚れて錆が目立つ。
雨の湿気も手伝い、錆びた鉄の臭いがうっすらと鼻につき、余計に気が滅入る。
その階段を上がって最初の部屋──玄関のドアを開ければ、父の靴が綺麗に揃えてあった。

「……」

しん…と静まり返る室内。
天気のせいか。奥へ向かう程薄暗く、人の気配さえ感じない。

「……どうぞ、上がって」

玄関の電気を付け、靴を脱ぐ。
上がって直ぐ右側にはトイレ。左側には、壁に埋め込まれるような形で置かれた洗濯機と洗面台。その前を通り過ぎ左側に現れたのは、水回りがひと纏まりになった、キッチンとバスルーム。
部屋の奥に見えるのは、リビングと……父の部屋。

「………あれ、散らかって見えるけど。一応……僕の部屋なの」

リビングの奥にある、窓際とカラーボックスの隙間にある空間。そこに隠れるようにして畳まれた、シングル布団。僅か一畳程しかないそこが、唯一の居場所であり……この家の中で最も落ち着ける、僕の空間。
……でも、あれが部屋なんていうにはお粗末すぎて。恥ずかしくて、樹さんの顔をまともに見られない。

「なんか、……ごめんなさい」
「……」
「……あ……ここに座って、待ってて下さい。寒いですよね。今お茶を煎れるので……」
「──実雨」

顔を伏せたままキッチンへ逃げようとする僕の手を、樹さんが強く掴んで引き止める。

「構わなくていいよ。……それより、実雨のお父さんと、話をさせて」
「……」

いつもと同じ口調。
穏やかで落ち着いた、樹さんの優しい声。
……だけど、違う。
何処か冷ややかで、少しだけ怖い。

「………うん」



緊張して震える手。
父の部屋の前に立ち、手のひらを軽く擦り合わせる。大きく深呼吸をひとつし、意を決してノックをしようと、手を構えた時だった。

──ガチャッ

突然、目の前のドアが半分程開かれる。
僕が居る時は、大概顔を出したりなんかしないのに。

「……」

一体、いつぶりだろう。
幼顔ながら、綺麗に整った顔立ち。綺麗な二重。僕と同じ位の背丈。細身の身体。いつから切ってないんだろう、後ろに無造作に束ねた髪。
形の良い瞳が嫌悪に満ち、鋭く僕を睨みつける。

それは、無断外泊した事か。一度も電話に出なかった事か。
……それとも、勝手に人を家に招き入れたからか──


「………愛月あき……?」


強張る僕の背後に立った樹さんが、驚いたように父の名を洩らす。
その声に反応しドアを更に開け、視線を上に移した父が……その瞳を大きく見開く。


「………いつ、き……」




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