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第四章 永遠の凍雨

どうしよう

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「……お風呂、入りに行く?」
「うん」

絶頂の後、意識が飛んでしまった僕に、樹さんが後処理をしてくれたみたいだけど……何となく、まだ身体がべたべたしているような気がして。
それを気にしながら浴衣を着直していれば、それを察した樹さんが声を掛けてくれた。


替えの下着を出そうと鞄を開けると、底の方で何かが光っているのが見えた。掴んで拾い上げれば、それは携帯で。いつの間にか、サイレントに設定されていたらしい。

「──!」

コールの切れた画面に表示された、着信の数──『45』。
その異常な数値に、ゾッと寒気がする。
履歴を開いて確認すれば、ずらりと並ぶ『自宅』の文字。

「……」

……何で。
何で、僕に関心のない父が……こんなに……

上にスクロールし、古い方へと遡っていけば……最初に掛けられたのは、昨晩の9時半頃。そこから順を追って確認していくと、深夜2時頃まで頻回にあり。それから間が開いて、明け方4時から数回。

「……」

確かに……一泊旅行の事は伏せていて、『友達の所に泊まる』とだけ書いたメモを、出掛けにテーブルの上に置いてきただけ。
僕に無関心な父なら、僕が何処で何をしようと、居ても居なくても……どうでもいいんだと思っていたから。

「………」
「どうかした?」

僕の様子に気付いた樹さんが、背後から声を掛けてくる。

「………家から、電話が掛かってきてて……」

手が、声が……震える。
小さい頃は、喉から手が出る程欲しかった、僕への興味。だけど今、突然向けられたそれが──こんなに重くて、苦しくて、心が痛いなんて……

「どうしよう……」

狼狽えながら振り返り、縋るような目で樹さんを見上げる。

「……旅行の事、黙って来ちゃったから──」

取り返しのつかない事をした──それまで感じた事のない、罪悪感。自分がとても悪い事をしたんだと、悪い子なんだと思い知らされる。

「………そっか」
「……」
「──兎に角、電話して。まずは無事だって事を知らせないとね」

思い詰めて震える僕を、樹さんがそっと抱き締めてくれる。

「………うん」

一人じゃない──そう思ったら、少しだけ呼吸が軽くなったような気がした。



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