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第四章 永遠の凍雨

一緒に行こう

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×××



サァァ……


「……」

いつから降り続いていたんだろう。
雨垂れの音で目を覚ませば、窓格子から見える景色全てが、灰色がかって見えた。


「……実雨」

布ずれの音と共に、樹さんの気怠い声が聞こえ、背後から抱き締められる。
項に掛かる、熱い吐息。心地良い腕枕。
肌と肌が直接触れ合い、お互いの体温を感じ……身体を重ねた記憶が蘇る。



「何、考えてるんだ?」
「……」
「……もしかして、大空の事……?」
「──え、」

思ってもみない言葉が飛び出し、驚いて振り返ろうとする。けど、その前に、樹さんの唇が僕の項を襲い……

「………あぁ、…んっ、」

甘く食み、厭らしく舐め、樹さんの手が僕の胸を揉みしだき……芯を持った小さな膨らみをきゅっと摘まむ。

「………だとしたら。……少し、妬けるかな」

頭に敷かれた腕を引き、片肘を付いて上体を起こせば、僕の肩を掴んで軽々と仰向けに倒す。
上から覗く樹さんの瞳に孕む、熱情の色。でもそれは、昨夜の時とは違い、憂いを帯びていて……

「………いつき、さ……」

強く抱き締められた後、重ねられる唇。半ば強引に割られ舌が滑り込めば、僕を追い掛け咥内を弄られる。

「………は、……んぅ……、」

舌を伝って、とろとろと流れてくる唾液。咥内で僕のと混じり、ねっとりと絡まれば、息が出来なくて……苦しい。

「………ん……、」

掻き回す舌が、ゆっくりと離れていく。
瞼を持ち上げれば……鼻先に掛かる程の近い距離で、樹さんの真っ直ぐな視線とぶつかる。

「僕も、同じだよ。……実雨の中に、今でも大空が棲み着いているかと思うと……時々、不安で堪らなくなる」
「……」
「……ごめんね。余裕のある、大人じゃなくて」

光が失せ、寂しそうに細められる瞳。
それは、本心を隠そうとする作り笑顔にも少し似ていて──それでも、気持ちを打ち明けてくれたんだと思ったら、胸の奥が柔らかく締め付けられ、じん…と熱くなる。

「……全然、気付かなかった。樹さんも不安に思ってたなんて」
「幻滅した?」
「ううん……」

目を合わせたまま、小さく首を横に振る。

「もし、気を悪くしたら……ごめんなさい。
大空が、『忘れるな』って……言いに来た夢を見たの。
忘れたりしないよ。好きだった人だもん。……けど、もう僕は、樹さんを選んだから。
だから、ごめんねって……伝えたの」

昨日の展望台で、トラウマの事を話してくれた樹さんも、きっとこんな気持ちだったのかもしれない。
……もし、最初からそう思えてたら……杞憂する必要なんて無かったのに。

「……」
「怒った?」
「怒ってないよ」
「……」
「実雨」
「……ん?」
「いつか……大空の墓参りに行こうか」


意外な言葉が飛び出し、驚いて瞼が大きく持ち上がる。


「………いいの?」
「うん。一緒に行こう」



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