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第四章 永遠の凍雨

ごめんね

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胸元から吊り上げられるように、ふわりと身体が浮き上がる。
息苦しくて顎先を天に向ければ……ひやっとした手のようなものが下り、僕の頬を撫でる。


『……実雨』

『俺を、忘れんなよ……』


少しだけくぐもった……酷く、懐かしい声。
遥か上空から聞こえたような、脳内で響いたような、何だか変な感覚。
薄く瞼を開け、その手に触れようとするけど、その前に僕から離れ、スッと消えてしまう。


───大空そら……?


そう、直感した。

樹さんとは違う手。
樹さんとは違う声。
……だけど樹さんによく似ていて、何処か……優しい──

懸命に瞼をこじ開けようとするけれど、涙が邪魔して、その姿も、何もかも見えない──


………待って、大空……!!


心の中で叫ぶけれど、大空の気配はもうそこには無くて。
夢なのか幻なのか……それすらも解らない。
もし、本当に大空がいたとして──引き止めて捕まえた所で、今更、何を伝えようとしているんだろう……

……僕はもう、樹さんを選んだというのに。


──ごめんね、大空。

ずっと、大空の事……好きだったよ。
初めて大空を間近に捉えて、その笑顔を見た瞬間から──不思議と心が動いて。

それからは、大空の事ばかり見てて。大空の事ばかり考えてた──

……ごめんね。
あの時、ちゃんと伝えられなくて──

ごめん……ね……


朦朧とした意識を手放した瞬間。
大粒の涙が、つぅ……と一筋……目尻から零れ落ちた。








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