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第四章 永遠の凍雨

浮気

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部屋出しの夕食。
お:櫃(ひつ)に入ったご飯。お造り。季節の鍋。沢山の小鉢に季節のデザート。
決して豪勢な見栄えではないけれど、そのひとつひとつが素朴な味わいで、不思議と心を落ち着かせてくれる。
経験した事はないけど……田舎の親戚の家に、遊びに来たような……


「食べきれない程の量だね」

出されたビールには手を付けず、樹さんが田舎料理を堪能する。

「………うん。でも、どれも凄く美味しくて……」

ぼそりと呟けば、座椅子に胡座をかいてリラックスしている樹さんが、興味深げに真っ直ぐ僕を見る。
それに耐えきれず、俯いて口を開く。

「料理人に敵うなんて、全然思ってないけど。……物心ついた時から、ずっと家ではご飯作ってたのに……」
「……え、実雨が、料理を?」

驚いて視線を上げれば、心外だとばかりに樹さんが驚いた顔を見せる。
それが何となく恥ずかしくて。茶碗を抱えたまま再び目を伏せ、こくんと小さく頷く。

「……うん。うちも:大空(そら)と同じ、片親だから」
「……」

口にした途端、空気が変わる。
気まずくて、居心地が悪い。


「僕が生まれる前──父が独り暮らししてる頃、母が押し掛ける形で一緒に住み始めて……それで、僕が生まれて……」
「……」

……なに、話してるんだろ……
こんな事話したら、余計に空気が重くなるだけなのに……

「その頃、父は商業デザイナーの仕事をしてて、母は専業主婦で。
僕がまだ6歳くらい……かな。
時々アパートに、母の友達だという男性が、父の留守中に来るようになって……僕を蔑んだ目で睨みつけて、凄く怖かったのを憶えてる……」
「……」
「今思えば、……浮気、だったんだと思う。
隣の部屋から、そういう声も、聞こえてきてたから」

鼻の奥に記憶された、化粧品と香水のキツイ臭い。
『パパには内緒よ』──僕にそう耳打ちし、二人が別室へと消えていく。
一人残された僕は、何も知らずに与えられたビデオを、ただ只管観ているしかなくて……

「──ある日、いつもより濃い化粧をして、綺麗に着飾った母が………僕を置いて、出て行ったの。
浮気相手と、駆け落ち……したんだと思う」
「……」
「大きな荷物を抱えてたから、嫌な予感がして……引き止めようとしたけど、無理だった。
……それからずっと、帰って来てない」

コトン……
お茶碗と箸をテーブルに戻す。
顔を伏せたまま、両手を膝の上に乗せた。


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