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第四章 永遠の凍雨

トラウマ

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「夕陽の当たるゴンドラに、……ちょっとしたトラウマがあってね」

寂しそうな表情。
スッと僕から視線を外し、遠くの夕映えを眺めながら再び口を開く。

「学生時代──仲の良かった男女5人で、遊園地に行った事があるんだ。
……でも、その目的は、僕が密かに思いを寄せていた彼と、その彼に好意を持っていた彼女との仲を取り持つ、というものでね。
二人は、誰がどう見てもお似合いのカップルに見えたし、付き合うのも時間の問題だった事もあって……これをキッカケに、そういう仲になるんだろうな、って……」
「……」
「最後に皆で観覧車に乗ろうって話になった時、彼とその彼女が一緒のゴンドラに乗るのを、三人で見送った。先回りして下で待って、揶揄いながら告白の結果を聞く予定だった」
「……」
「でも、目的は彼だけじゃなくて。……僕も……」

寂しそうな瞳だけが僕に向けられ、直ぐにまた前方へと向き直される。

「……嵌められたんだ。ゴンドラに、もう一人いた女の子と押し込められて。他の誰にも邪魔されないあの狭い空間の中で………告白、された」

赤味が増していく一方で、徐々に広がっていく闇。
それを惜しむかのように、樹さんが真っ直ぐその赤い空を見つめながら口を開く。

「迷ったよ。……彼とは友達以上の関係を望めなかったし、例え望めたとしても、きっと彼を傷付け、関係を壊すだけだと思ったから。
お節介な友人のお膳立てに乗れば、全てが丸く収まる。そう、頭の中では解ってたんだよ。
……でも、とうしても……心が、抗ったんだ」
「……」
「なのに。
ゴンドラから見えた夕陽が、やけに綺麗で。その眩い光に溶け込んだ彼女との未来が、一瞬、煌めいて見えてしまって……」
「……」
「受け入れたんだ。
恋愛対象としてなんて、全然見られなかったのにね──」
「……」
「凄く、苦い思い出だよ」

樹さんが、寂しそうな瞳を僕に向ける。
少しだけ口角を持ち上げて、あの作り笑いを浮かべながら。

「……」

何て言葉を掛けていいか……解らなかった。
選択肢があるようで、実際にはなくて。
それを受け入れるなんて、とても簡単な事じゃない。

……でも。
あれからもう15年以上も経っていて……夕陽の当たるゴンドラに乗ったのは……僕なのに。

「……」

繋いだ手。
一度緩く解いた後、指を絡めて繋ぎ直す。
もう、二度と……離れたくないから。



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