77 / 107
第四章 永遠の凍雨
教えて
しおりを挟む
山頂に到着し、ゴンドラから下りる。その瞬間、下の乗り場よりも冷たい風に襲われ、ぶるっと身体が震えた。
華の過ぎた冬山の景色。澄んだ空気。茜色の大空。
展望台の鉄柵に手を掛け、夕陽の沈みきった空模様を、樹さんと並んで眺める。
「……何か、不思議」
「……」
「もう夕陽は沈んじゃったのに、まだこんなに明るいなんて。
見えないのに、まだそこにあるみたい……」
言ってから、恥ずかしくなる。酷く子供っぽい事を口走ったような気がして。
「………うん、そうだね」
静かに答える声。
寂しそうな、樹さんの横顔。
鉄柵に肘を掛け、何処か遠くを見つめていて……心ここに非ず、といった感じ。
ここに来てから、様子が変……
不安に駆られ、樹さんの腕をきゅっと掴む。
「樹さん」
「………、ん?」
「何かあるなら……ちゃんと、教えて」
踏み込んでしまっていいのか、ずっと悩んでた。けど、こういう事は、目を瞑って先送りにしちゃいけない……ような気がする。
緊張と不安で、顔が強張っているのが自分でも解る。掴んだ手が、震える。
ドライブ中に隣で寝ちゃった事、本当は怒ってる……?
それとも、僕の気付かない所で、何か嫌な事しちゃったのかな……
「………ごめん」
細い息を吐いた後、樹さんが僕に顔を向け、眉尻を下げた笑顔を作ってみせる。
それは、本心を隠そうとするもので。
「……」
別に、謝って欲しい訳じゃない。僕に悪い所があったなら、ちゃんと言って欲しいだけ。
曖昧にされたまま突き放されるのは……もう、嫌だから。
「……」
……でも、こんな事して、余計に嫌われたら……
目を伏せ、樹さんから手を離す。
と、それを追い掛け、樹さんの手が僕の手をきゅっと掴んだ。
「……ごめん。不安にさせて」
驚いて見上げれば、樹さんの瞳が真っ直ぐ、一点の曇り無く僕だけに向けられていた。
「実雨にとって、余り気分のいい話じゃないから、言わないでいようと思っていたけど……」
「……」
「ちゃんと、話すよ」
華の過ぎた冬山の景色。澄んだ空気。茜色の大空。
展望台の鉄柵に手を掛け、夕陽の沈みきった空模様を、樹さんと並んで眺める。
「……何か、不思議」
「……」
「もう夕陽は沈んじゃったのに、まだこんなに明るいなんて。
見えないのに、まだそこにあるみたい……」
言ってから、恥ずかしくなる。酷く子供っぽい事を口走ったような気がして。
「………うん、そうだね」
静かに答える声。
寂しそうな、樹さんの横顔。
鉄柵に肘を掛け、何処か遠くを見つめていて……心ここに非ず、といった感じ。
ここに来てから、様子が変……
不安に駆られ、樹さんの腕をきゅっと掴む。
「樹さん」
「………、ん?」
「何かあるなら……ちゃんと、教えて」
踏み込んでしまっていいのか、ずっと悩んでた。けど、こういう事は、目を瞑って先送りにしちゃいけない……ような気がする。
緊張と不安で、顔が強張っているのが自分でも解る。掴んだ手が、震える。
ドライブ中に隣で寝ちゃった事、本当は怒ってる……?
それとも、僕の気付かない所で、何か嫌な事しちゃったのかな……
「………ごめん」
細い息を吐いた後、樹さんが僕に顔を向け、眉尻を下げた笑顔を作ってみせる。
それは、本心を隠そうとするもので。
「……」
別に、謝って欲しい訳じゃない。僕に悪い所があったなら、ちゃんと言って欲しいだけ。
曖昧にされたまま突き放されるのは……もう、嫌だから。
「……」
……でも、こんな事して、余計に嫌われたら……
目を伏せ、樹さんから手を離す。
と、それを追い掛け、樹さんの手が僕の手をきゅっと掴んだ。
「……ごめん。不安にさせて」
驚いて見上げれば、樹さんの瞳が真っ直ぐ、一点の曇り無く僕だけに向けられていた。
「実雨にとって、余り気分のいい話じゃないから、言わないでいようと思っていたけど……」
「……」
「ちゃんと、話すよ」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる