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第四章 永遠の凍雨

始めての遠出

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「……着いたよ」

肌寒さを感じて薄く瞼を持ち上げれば、優しい眼差しを向ける樹さんに声を掛けられた。
胸元まで掛かっていたブランケットを外し、シート毎身体を起こすと、フロントガラスの向こう──オレンジ色と山吹色の綺麗なグラデーションに染まる広大な空が、目に飛び込む。

「……え、ごめんなさい。……僕、」
「いいよ」

ハンドルに手を掛けたまま、樹さんが優しく微笑む。その横顔に、射し込まれる夕陽の光が当たり、優しくも美しく、儚くも切ない色に染め上げる。

「昨日、楽しみで眠れなかったみたいだからね」
「………そう、ですけど……」

気恥ずかしさから逃れるように、樹さんから視線を逸らす。
と、そんな僕の右頬を、揶揄うように樹さんが軽く摘まんだ。

「ふて腐れるなら、……僕も」
「え……」
「敬語。また使ってる」
「……あ、」

驚いた顔を樹さんに見せれば、くすくすと可笑しそうに笑う。
トクン……、その優しさを滲ませた表情に、胸が鼓動を打つ。
だけど、その笑顔は直ぐに消え、僕から手を離すと、樹さんの瞳に寂しそうな色が宿る。

「それに……」
「……」
「………いや。行こうか」

言いかけた言葉を飲み込み、作ったような笑顔で本心を隠す。

「……うん」

だから僕も、それ以上聞けなくなってしまう。
本当はもっと、色々話して欲しいのに。




文化祭が終わってから昨日の終業式まで、特別何か変わった事はなかった。
強いて言えば、今井くんと目が合う回数が増えた気がするけど。本当にそれだけで。学校でもプライベートでも、未だ会話を交わせる程の雰囲気にはなってない。
そして、家では父が、用意した食事に全く手を付けなくなり……わざと僕を避けているのか、姿を見かける処か、気配すら感じなくなってしまった。

その辛さや淋しさを埋め、僕を支えてくれるのは──大空が残してくれた、ペアリング。
そして、樹さんという大きな存在。

僕のせいで、大空や佐藤さん、今井くんや石田さんを傷付けてしまった後悔や、樹さんと付き合う後ろめたさは残っているけど──

それでも、悪い事ばかりじゃない。
……今はそう、思えるようになった。


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