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第三章 虚ろいの秋雨

突然のメッセージ

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……はぁ、はぁ、


逸る気持ちを抑え、少しひんやりとした夜風を切って走る。



それは、本当に偶然。
だけど凄いタイミングで。

帰り際の教室──
何の気なしに開いた、ゲイ専用の出会い系サイト。プロフィール画面にあるメッセージ一覧を確認していて、瞼が大きく持ち上がった。

『ミキ』

送信者の中にあった、二文字の名前。
リンクから飛んでみれば、間違いなく、プロフィール画像は樹さんのもので。
送信日時を確認すれば、ほんの数分前。

「……」

途端に蘇る、やり取りしていた頃の記憶──肌を重ねた、懐かしい温もり。優しい声。大空に似た匂い。

ついさっき、樹さんがこれを送信したんだと思ったら……僕のすぐ傍にいるような気さえし、胸が、身体が、熱くなっていく。


《良かったら、会いませんか?》


──え


ドクンッ、と大きく跳ねる心臓。
突然襲い掛かる高揚感。止まる息。

ミキさんのメッセージから、目が離せない。
携帯を持つ手の指先が痺れて……上手く、動かせない。


〈はい。ミキさんさえよければ〉


そう打ち込んで、送信ボタンをタップする。
その指先が、まだ震えてる。

淋しさを、また誰かで埋めようとしているだけなのかもしれない……
そう思ったら、今更ながらに足が竦む。

……でも、会いたい。

会って、いっぱい話したい。
樹さんとさよならしてからの今までを。
……全部、聞いて欲しい……






ネオン街にある、ファストフード店。
煌々とした店内は賑やかで。何だか居心地が悪い。
烏龍茶とフライドポテトの乗ったトレイを持ち、窓際のカウンター端に座る。

「……」

緊張で、落ち着かない。
そわそわしながら、ガラス壁の向こうを眺める。
大通りを往来する人々。学校帰りの学生達。楽しげな男女のグループ。帰りを急ぐ親子。
その中に混じる、サラリーマン。そのスーツ姿を見掛ける度に、樹さんだと錯覚し、無意識のうちに目で追ってしまう。

そのガラスにうっすらと映る自分が、何だか寂しげで。
俯いて、紙製カップに刺さったストローを弄りながら、心を落ち着かせる。


………ねぇ、樹さん。
どうして突然、ゲイサイトを去ったの?
どうして、また戻ってきたの?

最後に開いた日の夜──今井くんにここを見られたと解った後、樹さんとのプライベート空間が消えてしまっている事に気付いて。ショックで。

もう、返事が来ないと解っていても。
あの空間があったから、僕は……
まだ樹さんと、繋がっているような気がしていたのに……

僕が、あんな事書いたから?
早々に、大空の友達と付き合うような、薄情な奴だと、呆れたから……?

今日、会ったら……どんな話をするんだろう。
樹さんは、どんな表情をみせてくれるんだろう。


そんな、期待と不安が入り混じったまま、カップを持ち上げ、ストローを咥える。


プルル……

と、その時。
突然、ポケットの中にある携帯が鳴り響く。


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