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第二章 激情の通り雨

どういう関係?

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熱したフライパンに溶いた卵液を流し込み、手早く薄く広げる。
籠もった空気と熱。それらを吐き出そうと、換気扇のスイッチを入れた。

「なに作ってんの?」

それまで携帯を弄っていた魁斗が立ち上がり、僕の背後に近付いて、肩越しから僕の手元を覗き込む。

「……オムライス、です」
「へぇ、美味そう」
「……」
「もしかして、俺の分も作ってくれてたりする?」
「………はい」

ケチャップで炒めたご飯を、薄焼き卵で包みながら答えると、背後に立つ魁斗の手が、僕の両肩に置かれる。

「みーたんてさ、尽くすタイプ?」
「……」
「でも、残念。こういう家庭的なオムライス、猛は食べないんだよね」
「………え」


『……美味いな』──あの時、今井くんはそう言って、涙を流しながら食べてくれた。
もし嫌いなら、そんな事言わないし……ましてやリクエストなんて、しない筈──

「何でか話してくれないから、本当の所は解んないんだけどさ。
大事にしてたハンカチとは逆に、何か嫌な思い出とかあると思うんだよね」
「………」
「例えば、前の家族と揃って食べた最後の食事が、オムライスだった……とか」
「──!」

──そんな……
それじゃあ、あの時今井くんが泣いていたのは……
……僕が、今井くんの嫌な過去を……

「……」

オムライスを出された時、どんな気持ちだったんだろう。
一体、どんな気持ちで……食べたんだろう──


「……っ!」

突然、僕の襟足を掻き分けた指が項に触れ、びくんと肩が跳ねる。

「やけに蚊に刺されてんな……って思ってたけど。コレ、違うよね」

核心を突かれ、血の気が引く。
それまで落ち着いていた心臓がバクバクと暴れ……手が、止まる。

「みーたんの彼女、随分と嫉妬深いんだね」
「……」
「それとも、彼女じゃなくて……猛だったりして?」
「……」

軽い口調。
多分、冗談なんだろうけど……
こういうノリとか、嫌だ。
……落ち着かない。

「………違います」

不安で、声が震える。
どうしたらいいか……解らない……

「……今井くんとは……そういう関係じゃ……」
「じゃあ、どういう関係? 何でうちに飯作りに来たの?」

振り返って魁斗を見上げれば、間近で目が合う。
嫌味とか責める感じではなく、純粋に知りたいという真っ直ぐな瞳を向けていて──


───バンッ!


その時、玄関のドアが勢い良く開いた。


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