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第二章 激情の通り雨
下の名前
しおりを挟むミーンミンミン……
鼓膜の奥で反響し続ける、蝉の声。
まるで、僕を責め立てているかのように、いつまでもくぐもって聞こえる。
出掛けに約束してた、オムライス。
もしかしたら、こんな事したって仕方がないのかもしれないけど。
最低限の食材が入ったスーパーの袋を脇に置き、アパートのドア前に腰を下ろして膝を抱える。
太陽が大分落ち、目の前の世界が夕焼け色に染まっていく。
生温く、気怠い空気。
昼間の暑さを思い出させる風が、僕の頬を優しく撫でる。
「……」
何で、怒ってたんだろう。
余りに突然で、どうしたらいいか……解らない。
今井くんが、解らない。
とてつもない不安に襲われ、組んだ手の指先に力が入る。
ふと思い出されたのは……教室での大空と今井。
二人が良く連んでいた頃、僕はいつも、大空を通じて今井くんと関わりを持っていた。
たまに、今井くんが意地悪をしてくる事があったけど、それはただの振りで。大空が僕をさり気なく庇って……その後は、大概僕抜きで話が弾んでいた。
………でも。
大空が居なくなってから……僕とは一線を引き、皆の前では一切の関わりを持たない。
大空の家に皆で行こうって話が上がった時も……僕は外されたままで……
なのに。
終業式で……突然、あんな事……
「……」
胸の奥が苦しくなり、顔を伏せ、目を瞑る。
「……どちらさん?」
どれ位経ったんだろう。
突然声を掛けられ、驚いて顔を上げる。
見れば、そこにいたのは大学生くらいの細身の男性。
「そこ、俺んちなんだけど」
「………え」
戸惑いを隠せず、動揺したまま言葉に詰まる。
暫く見つめ合っていれば、その男性が後頭部に手をやり、空を仰ぐ。
「……あー。弟の方か」
「え……」
「猛猛の友達、だよな」
……たけし……
初めて聞く名前に戸惑いながら、働かない頭を何とか稼働させる。今井くんの名前を思い出そうとして、出席表の『今井 猛』の文字がうっすらと浮かんだ。
「………はい」
答えながら、今井くんの名前を初めて意識した事に気付いた。
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