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第二章 激情の通り雨

止まった世界

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×××


夕飯の仕度をし、テーブルに二人分のオムライスを置く。
添え物には野菜サラダ。インスタントのコーンスープ。

「……」

少し前に部屋の前で父を呼んだけど、いつも通り返事はない。

父は昔から自分の世界を愛し、自分の世界に生きている。いつまでも目を背け続ける父に愛想を尽かした母は、まだ6だった僕を置いて出て行った。
それでも──父は変わらない。
父子家庭になってからも、相変わらず僕との間に壁を作り……家族のように接する事なんて、ない。

思春期前は、父に振り向いて欲しくて。色んな話を振ってみたり、寄り添ってみたりしたけど……疎ましく思っていたんだろう。冷たく突き放し、僕を遠ざけた。
だからもう、今はこんな他人みたいなドライな関係でいいと思ってる。
今更家族になろうなんて言われても、困る。

「……」

父は、何も知らない。
僕の同級生が、バイク事故で亡くなった事も。その相手を僕が、想っていた事も。その父親と、身体の関係を結んだ事も──




自室に戻り布団に身を預けた後、ポケットから携帯を取り出す。
久しぶりに開く、出会い系サイト。樹さんとのプライベート空間を覗けば、終業式の夜に書き込んだコメントが残っていた。

〈こんばんは〉

あの日を最後に、ここの世界が止まっている。
樹さんのアカウントは……まだ残ったままなのに。

『さよなら』──あの時言われた台詞は、この関係全てを断ち切るという意味だって事くらい、解ってる。
だから、ここに書き込むのがルール違反だって事も。返事が来ない事も……解ってる。

それでも。
樹さんとの関係が、まだ首の皮一枚繋がっている状況に、酷くホッとしていた。


〈こんばんは、ミキさん。
僕ね、彼氏ができたんだよ。
見た目は厳つくて、目付きも怖い感じで。最初はちょっと苦手だなって思ってたんだけど、案外優しい所もあって。
ソラの事で、色々親切にしてくれたから。
だからね。終業式の後、告白された時……いいかなって〉

そう打ち込んだ後、送信ボタンをタップしようとして、親指が躊躇う。
瞬間。酷い動悸と眩暈が、僕を襲った。


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