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第1章 沈黙の村

覚悟と確認

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「八百屋復活ったって、野菜は買わなくてもいいんだから、お客さん集まるわけないじゃない」

 タオは馬鹿にするような目つきでアケビを見た。内心ではそう思っていながらも、律儀に毎日店を開けていた殊勝な娘である。

「いや、お前言ったよな。昔は父さんの話を聴きにくるついでに野菜を買ってったって」

「それがなによ」

「また昔みたいにすればええやんか。そしたら人も集まる」

 はあ?と言わんばかりの視線がアケビのもとに産地直送で届いた。

「みんなどうせ喋りたくてうずうずしてんやろ。我慢する方が身体に毒やわ。それに……」

アケビは言いかけて、口を噤んだ。

――まだこれは仮説だから、余計な期待を持たせない方がいい。とにかく俺のやるべきことは、八百屋を復興させて、村に活気を取り戻すこと。そんで村から出してもらうこと。村ひとつ立て直した功績を引っ提げて、あのクソ親父に自慢しに行く。唐茄子屋みたいに勘当を解いてもらえたら万々歳だ。

「それに? 」

「いや、とにかくやってみようや。親父さん呼んできて」

「わかったわよ」

 タオが部屋から出て行く。襖が閉まったのを確認して、ふぅと大きく息をつく。同時に「あっ」と、イヴに目をやる。決して存在を忘れていたわけではない。イヴは会議中ずっと体育座りをして、アケビたちの会話を聴いていた。もともと小柄なうえに、それだけコンパクトな形態をしていたら、本人に自覚はなくとも忍に匹敵する気配の消し方だった。断じて存在を忘れていたわけではない。

 と、一通りイヴとの交流(といってもアケビの一方的なもの)を済ませたアケビは、

「で、イヴは喋らへんのか」

と核心めいたように言う。イヴは豆鉄砲を食らったように目をぱちくりさせている。

「結構貯まったんちゃうの?」

 イヴは首を横に振る。

「そうか。見当違いやったかな。仮にそうじゃなかったとしても、大事な時のために取っといたほうがええもんな」

 その言葉を聴いたイヴは立ちあがり、アケビの目を見て頭を下げた。アケビはイヴの頭をひとつ、ポンと叩いた。何やら信頼関係が築かれようとしているではないか。

と、その時向こうから割れんばかりの怒声が響く。

「誰だ、夜半我が娘の寝床を漁る不貞な野郎は」

 嫌な予感と、どすどすという足音が同時に迫り来る。何やら信頼関係が築けそうにない足音ではないか。

 アケビは、(ああ、会いたくないなあ)と思いながら、イヴの頭をもう一度ポンと叩いた。ざんぎり頭ではないので、文明開化の音はしなかった。
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