夫婦とは長い会話である

中田翔子

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新幹線のジレンマ

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女:「海みえないかなあ」
男:「……え?」
女:「海」
男:「ああ。新横浜過ぎてからじゃない?」
女:「元気ないじゃん」
男:「そう?」
女:「旅行だよ?京都だよ?」
男:「教徒というより暴徒だよ」
女:「ん?ボート?」
男:「自分の中に暴徒がいるような気がして。それも2人も」
女:「ボートが?2人?」
男:「例えば今日は東京から乗ったでしょ?」
女:「品川ではなかったね」
男:「そう。いつも品川から乗る時は、東京から乗る人たちのことをよく思っていなかったんだよ」
女:「え、なんで」
男:「後から乗ってくる人のことを考えろよって。俺たちは東京駅への集中を避けて分散乗車に協力してるんやぞって」
女:「ああ。でも今日は東京駅から乗ったおかげで座れたやん」
男:「そこなんですよ。そうすると今度は今日、品川から乗ってきて必死に席を取り合う人たちをみて憐れんでしまって。横着するから座れねえんだよ、ちゃんと東京まで来いよって」
女:「でもそういうことって、わたしにもあるよ。例えば、恋とか」
男:「鯉?」
女:「恋してない時は、彼の話ばかりするカナコにちょっとうんざりしてたの」
男:「ああ恋ね恋」
女:「でもあなたと交際しはじめた途端、今度は恋してないメグミに対して疑問を持つようになったのよ。どうして恋しないの?って」
男:「うん」
女:「東京から乗ったから気づけたんでしょ?その気持ち」
男:「……うん」
女:「東京から乗ってよかったんじゃない?」
男:「東京から乗ってよかった」
女:「ふふ。わたしも。恋してよかった」
男:「僕も」
女:「ところでボートって何の話?」
男:「ん?さあ観光かな」
女:「ボート乗りたくなってきた」
男:「俺も鯉見たい」
女:「なんで鯉」
男:「じゃあ宝ヶ池かなあ」
女:「宝ヶ池のボートってカップルで乗ったら別れるらしいよ」
男:「ジンクスってやつか」
女:「そうジンクス」
男:「でもジンクスもあれよね。別れるかどうかなんて死ぬまで分からへんねんから」
女:「死人に口なしやもんね」
男:「うん」
女:「ゾンビに口なし」
男:「誰がゾンビや。ゾンビ口あるわ」
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