上 下
59 / 143
2章 村での生活

泉に住む犬とアヒル①

しおりを挟む

 とある泉の近くに、アヒルと共に住み着いている犬が居た。


 ある日、犬は森の中で普段聞いたことのない音が聞こえたので、単独で泉から離れて音が聞こえた辺りの様子を見に来ていた。

 少し前には森の中に巨大な樹が突然現れて驚き、今度は突然の大きな音。

 樹の方は悪い感じが全くなかったが、音の方はよく分からない。

 一緒に居たアヒルは悪意を感じないから大丈夫だと言っていたが、犬は念のために調べに来たのだった。



 犬は恐らく音が鳴ったであろう場所にたどり着くも、砕けた木の実しか見つからない。


(う~ん……この辺りに、なんとなく人間のような匂いがするんだけど……ぼくの知ってる人間たちとはなにかがちがう気がするんだよなぁ……)


 砕けた木の実の周囲にある匂いが気になって、鼻を鳴らしていると──


「グワァ~~!!」


 まるで遠吠えのようなアヒルの鳴き声が聞こえてきた。


(!? アヒルくんの声だ! 何かあったんだ!)


 犬は急いで泉に向かって走る。ものの数分で泉に到着すると、そこには──


(お帰り~)

(え? あ、ただいま……?)


 グワ~とのんびりとした雰囲気のアヒルに迎えられ、戸惑う犬。


(じゃなくて! 呼ばれたからいそいで帰ってきたんだよ!)

(そうだ、きいてよ! さっきね、お魚をとれたんだけど……)


 犬が我に返って何かあったのか聞くと、アヒルがグワッ! グワッ! と言ってきた。

 アヒルの話は、せっかくくわえることができた魚をうっかり逃がしてしまったと言う内容だった。


(それはザンネンだったね……次にとれた時は、うれしくても先にたべちゃった方がいいと思うな)

(うん……でも、中々とれないから……とれたらうれしくなっちゃうんだ……)


 また逃がしちゃったのかと思いつつ慰める犬だが、あんな大声で呼ぶほどの出来事だったのか疑問に思った。


(それにしても、あんな大声でぼくをよぶほどショックだったの?)

(ショックだったよ! でもよんだのは、人間がきたからなんだ~)


 再度大声で呼ぶほどの事だったのかと聞いてみると、のんびりとした口調で予想外の答えが返ってきた。

 この答えには犬も思わず大きな声でワン! ワン! と吠えてしまった。


(人間が来たなんて大問題だよ!! なんで早く言わなかったの!?)

(だって! お魚の事がショックで、忘れちゃってたんだもん!)

(えぇ……そこまでなの……?)
(うん!)


 クワッ! と言いきるアヒルにちょっと引いてしまった犬だが、頭を切り替えて詳しく聞いてみることにした。


(えっと……人間はどの辺りまで来たの?)

(あの辺だよ!)


 アヒルがグワッ! と翼で指し示したのは、泉で一番森に近い所だった。


(もしかして、いずみになにかをしたんじゃ……?)

(ぼくが見たときは、いずみに手を入れていたよ~)

(ええっ!? もしかしてどくとか……)

(どく? それって体にわるいやつだっけ?)

(そうだよ! つよいどくだとしんじゃったりするんだ!)

(でも、ぼくいずみにずっといるけど……なんともないよ?)

(それもそうだね……じゃあ、人間はなにをしに来たんだろ?)


 犬は人間がやりそうな悪いことを考えてみたけれど、なかなかこれといったものが思いつかなかった。

 なにも思い付かず、思わずキューン……と落ち込んだ声が出てしまう犬。

 するとアヒルがなにかを思い出したようにグワーと鳴いた。


(そう言えば、ぼくが人間に気づいたのはいずみの水がへったからなんだよ~)

(そうなの!? というか、それを先に言ってよ……)

(だって、お魚が……)

(あー……うん、そうだったね……)


 アヒルにとって、食べ物のことはとても大事なことなんだと、改めて犬は思い知った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

セイヴァーオンライン

ゴロヒロ
ファンタジー
救世社から新しいVRMMOが発表された それがセイヴァーオンライン 様々な世界に向かい、その世界の危機を救う それがこのゲームのコンセプトだ!! カクヨムでも投稿してます

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...