園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙

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1章 冒険の始まり

41.5話 困惑する運営

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 とあるビルの三階にある事務所で、数人が忙しそうにパソコンに向き合っている。
 と、そこに外から戻ってきた人物がいた。


「みんな休憩しよう! 夕飯とデザート買ってきたからさ!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

 現在時刻は二十一時すぎ。
 夕飯と聞いて気合いが入った社員達は、区切りのいいところで作業を中断して、遅めの食事に勢いよく群がった。


「ヒレカツ弁当は俺が!」

「むっ……じゃあ俺はカツカレー──」
「ごめんなさい、カツカレー貰っちゃいました!」

「なっ……じゃあカツ丼──」
「わりぃ、カツ丼はもう食ってるぞ」

「そ……そんな……残ってるのはカツサンドと海苔弁当っすか……」

 カツが食べたい気分だったのだが、確かカツサンドは課長の好物だし──
「カツサンドは食べていいよ?」

「えっ……でも課長、カツサンド好きっすよね?」

「そうだけど、君が食べたそうな顔してるからね。はい、あげるよ! 私は海苔弁当も嫌いじゃないし!」

 笑顔で渡されたら、返すわけにもいかないのでありがたく頂戴した。


「ありがとうございます! 課長のポケットマネーなのに、なんか申し訳ないっす……」
「気にしない気にしない! あんまり周りばかり気にしてると、ストレスで禿げちゃうわよ?」

「マジっすか……!?」

 思わず頭を押さえた男性社員を見て、課長は楽しそうに笑った。
 それが嫌みな笑いじゃなくて、心の底から楽しそうに笑うから、笑われた男性社員もいつの間にか笑っていた。


「課長酷いっすよ~」
「あはは、ごめんごめん! ついね!」

 この職場はいつも同じメンバーのみで作業しているので、上司を含めてみんな親しい仲間のような間柄のようだ。


「そうだ課長、例のプレイヤーにメッセージ送っておきましたよ」
「例のプレイヤー?」

 ヒレカツ弁当をあっさり食べ終わった男性社員は、課長に頼まれていた件を報告したのだが、どうやら忘れていたようだ。


「あれですよ。『???』スキルがあるが大丈夫かって確認してくれた」
「おお、あの人ね! って、確かこちらから教えられる情報あまりなかったでしょ? 怒ってなかった?」

 NナチュラルWワールドOオンラインが始まってまだ数日、公開できない情報が多くてまともな回答が難しかったはず。
 だから、怒られても仕方がないと思っていた。


「いえ、全く。むしろ〖こちらでも色々検証して、なにか分かればご連絡します〗と返事がきました」
「おおう……なんか申し訳なくなるほどいい人だなぁ……うちの課に欲しい……」

「なに言ってるんですか……」
「やだなぁ、冗談だって! あ、デザートは冷蔵庫にしまってあるからね!」

「「「「了解です!」」」」

「返答はやっ!」


 リメイク版NWOが公開されてから、問い合わせに対応しているこの部署は早朝から深夜まで休み無しに近い忙しさだ。
 それもこれも──


「結局『???』のユニークスキル持ちは、何人になったんだっけ?」
「十人ですよ」

 カツカレーを食べ終わって、デザートにチョコレートパフェを食べている女性社員が即答した。


「十人かぁ……この手のゲームでユニークスキル持ちの人って大変よねぇ」

 運営が手を出していない……いや、出すことができないユニークスキルの存在が、忙しさに拍車を掛けている。


「なに呑気なことを言ってるんです? 既に二人の方が、ログインしていないようですよ? チート扱いされて、嫌がらせを受けたって……」
「それ本当!?」

 思わず大声を出してしまう課長。
 それもそのはず、なんにも悪くないプレイヤーが嫌がらせを受けたというのだから。


「本当ですよ。ログも確認して保管してるんで、あとで課長も見てくださいよ……正直、気が滅入りましたよ……?」

「そんなに酷いのね……なら、本社に連絡してお詫びしないと──」
「それについては本社に連絡済みです。個人的にもメールでやり取りして謝罪はしましたよ」

「出来る部下がいて助かるわぁ! ……それにしても、困ったものよね……」

「課長、こっちにも『???』スキル絡みと思われるチートプレイヤー叩きの連絡が……」

「……マジ?」
「マジです。余りに酷くて、思わず通報したそうですよ」

 頭を抱える課長に、課の空気も重くなる。
 ユニークスキルの情報が公開されるまで、自称チート叩きがどれだけ横行するか。
 それによって、チートに縁のない善良なプレイヤーがどれだけ嫌な思いをするか……
 考えるだけで頭が痛くなってくる。


「本社から、ユニークスキルについての情報をほのめかす件について返答は?」

「不確定要素が多すぎて不可だと……」
「ああもうっ! 〖神〗はなに考えてんのよ!」

「確か、プレイヤーの中から八十人ほど選別して、なにかを見極める試練をさせたんっすよね?」

「そうらしいわ。ご丁寧に、一プレイヤーに一つのインスタンスマップを用意してね」

「え、一人ひとりにインスタンスマップを!? ……どれだけ負荷がかかったか考えられないっすね……」

 通常、オンラインでクエストを進めるときは他プレイヤーも同じマップに存在している。
 だが、八十人が個別のインスタンスマップにいたと言うことは、同一の世界が同じ時間に八十ほど存在していたと言うことになる。


「普通なら回線落ちしそうよね?」

「〖神〗が調整していたらしいわよ。試練を課したプレイヤー達を見ながらね」

「……どんだけハイスペックなんですか……」

「まあ、一応〖神〗っすからね……」
「「「「はぁ……」」」」

 〖神〗の所業に呆れ果てる面々。


「とにかく、ユニークスキル絡みの問題が発生したら全員で共有、最優先で対策していきましょう」

「「「「了解です」」」」

 課長の言葉に全員が了解し、デザートを食べ終わった面々は再びパソコンに向き合うのだった。
    
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