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1章 冒険の始まり

33話 ドロップ品のルール

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 さて、槍は無事に完成したし、タンジーを送っていかないとな。


「クレソンさん、今日は本当に、ありがとうございました!」

「いや、こちらこそ面白いものを見せてもらったよ!」

 面白いもの……? 候補がありすぎて、どれのことだか分からないな。
 俺からしたら、筋肉さんの方が遥かに凄かったが。


「またなんか作ることがあったら、是非声をかけてくれ! 場所も貸すし、簡単な手伝いくらいならできるからな!」

「それはありがたいです! なにか作りたくなったら、相談に伺わせてもらいますね」

「おう、楽しみに待ってるぜ!」

 楽しみにって……
 また俺が妙な名前のアイテムを作ってしまうのを期待してるんだろうな……


「それでは、また!」
「きんにくさん、またねー!」
《お邪魔しました》

「またな!」

 笑顔のクレソンさんに見送られて鍛冶屋を出て、歩きながら俺はタンジーに声をかけた。


「とりあえずタンジーを送ったら俺は森に行くよ。色々種を集めたいからね」
「ほんと!? お兄さんありがとう!」

 にこにこ顔で抱きついてきたタンジーの頭をなでながら、サラさんの依頼を思い出す。


〖ザワメキ森林から十種類の花の種を採種〗

〖一つの品種につき、最低十粒から〗


 確かこんな感じだったはず。


「今日だけで依頼は終わらないだろうから、サラさんには依頼を受けたことも言わないでおいてもらえるかな?」
「うん、わかった!」

 話をしつつサラさんの家に着いた俺達だが、出迎えてくれたサラさんはなにかに困っているように見えた。

「サラさん、こんにちは。……何かあったんですか?」

「ああ、リョウさん……こんにちは。実は、商人さんが村に来た時に買い物するつもりだったんですが……」
「お母さん、また来るじかんかんちがいしてたの……?」

 どうやら、商人が村に来る時間を勘違いしていたらしく、もう町に戻っていってしまったらしい。
 次に来るのは十五時過ぎらしい。


「お昼ご飯どうしましょう……マーガレットさんのところにいきなり食べに行くのもご迷惑でしょうし……」

「森の果物とかで構わないなら、採取してきましょうか?」

 俺としては、元々森に用があったからな。
 ついでに採取するくらいなら、たいした手間にもならないし。


「私としては、これ以上リョウさんにご迷惑かけたくはないのですが……」
「お母さん、いまさらだよ……それに、お母さんのい──」
「いやあ! 森に用があったからついでですよ! だからお気になさらず!」

 タンジーが依頼のことを話してしまいそうだったので、会話に割って入る。
 むむ……不自然過ぎたのか、サラさんは不審げな表情だ。
 でもタンジーは気付いてくれたらしく、小さく手でごめんね、と合図してきた。


「タンジー、リョウさんと手でやり取りなんて、楽しそうねぇ……ずるいわ……」

 タンジーとのやり取りに気付いたサラさんは、ふてくされてる……
 まさかそっちに興味をとられるとは。
 でも、今は凄く都合がいい。


「とりあえず、俺は森に行って来るのでまたのちほど! タンジーもまたね!」

 俺はそう言って、サラさんから逃げるように走り出した。


「お兄さん、行ってらっしゃい!」
「ちょっとリョウさん! ……もう! 帰ってきたら色々お話し聞かせてくださいね!」

 お話しは、遠慮したいかもです……



 門番の人に挨拶をしてから村を出て、ザワメキ森林に入る。
 ストレージから槍を出して……あ、槍の名前変えてもらうの忘れてた……
 とりあえず、装備しておこう。


〖柄が決め手のアイアンスピア〗

 右手持ち

 攻撃力  66
 攻撃速度 -13%


 両手持ち

 攻撃力  81
 攻撃速度 1%

 改めて見ると、すごい強さだな……
 ビギナースピアだったら、両手持ちでも四十二くらいだろうな。


 森に入って薄暗い道を歩く。
 ここに来るのは初日以来だが、なんか凄く前のことのような気がしてくるなぁ。


《リョウさん、先日の狼のドロップ品がまだあるはずですから、近くを通る時は見に行きましょう》

「え? でも、もう二日くらい過ぎてるよ? まだあるのかな?」

 確かドロップ品は、毛皮かなんかじゃなかったかな?
 肉だったら完全に終わってそうだよな……


《消滅にはこちらでの九十六時間、つまり四日かかりますから、まだあるはずです。品質は保証できませんが……》

「ずいぶん長く持つんだな。仮に肉とかあったら、どうなるんだろ?」

《当然腐ります。爪や牙ならともかく、毛皮などは使える状態ではないかもしれません》

 やっぱり腐るんだ。でも、消滅まではそこにあるんだ……
 それは、なんかやだなぁ。


「他の人が肉とか果物とかをそこら辺に放置しまくったら、恐ろしい光景になってそうだよな……」

《それはパーティーを組んでいれば、ですね。ドロップ品は、倒した人とパーティーを組んでいた人にしか見えませんから》

 そういう仕様なんだな。なら、そんなに問題はないんだろうけど。
 運営は大変なんじゃないかな……?


「なるほどね。じゃあ、近くになったら教えてもらえたりできるかな?」

 流石に、一回しか来たことがない森の中を探すのは難しいし。
 と言うか、いまどこにいるのかすら俺には良くわからないし……


《それくらいなら大丈夫です。パーティーではありませんでしたが、素材は私にも見えていましたからね》
「助かるよ! ありがとね!」

 肩に止まっているブレンの頭を、指でそっと撫でる。
 温かくてふわふわで……相変わらず気持ちいいなぁ。


《り、リョウさん……嬉しいんですけど、森の中だから……警戒はしてくださいよ……?》
「あ、うん、ごめん……警戒します!」

 森に入ったのに、気を緩めすぎてしまったな……
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