園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙

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1章 冒険の始まり

25話 ずぼらな女将さん

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 午後三時になったので再びログインすると、すぐにブレンが声をかけてきた。


《あ、リョウさんお帰りなさい!》

 宿の部屋で目覚めると、ブレンが肩に飛んできた。
 無意識なのか、俺の顔に体を擦り付けてくるのがかわいい。
 そっと撫でると、目を閉じて気持ち良さそうにしている……


 「なんかさ、このままだと、そのうちブレンは完全に小鳥になったり──」

《それはないです。……大体、誰にでもこんなことしてる訳じゃないんですよ?》

「いや、普通の小鳥も懐いた人にしかやらないだろ?」

《とにかく、大丈夫です!》

 怒っているのか、あちこち突ついてくるが全然痛くない……って、これ……懐いた小鳥が人にやる毛繕いなんじゃ?



 半ば小鳥と化したブレンとたわむれていると、ドアが控えめにノックされた。
 返事をしてドアを開けると、そこにいたのは女将の娘さんだった。


「おはようございます。朝ごはん出来てますが、本日は食べていかれますか?」

「え、確か朝食は作ってないんじゃ?」

 そう言うと、娘さんは苦笑して──


「私達も朝は食べますよ?」

「あ、いや、そう言うことじゃなくて……その──」
「お母さんが、起きていたら一緒に食べないか聞いてこいって」

 娘さんはにっこり笑いながらそう言った。
 つまり、宿のお客としてじゃなくて客人として一緒に朝食はどうか……ってことか。
 ありがたいな。


「じゃあ、お邪魔させて貰おうかな。ブレンはどうする?」

《私は森で採取してきますね!》

「了解。気を付けてな」

 ブレンは顔を俺に数回擦り付けると、窓から飛び立っていった。
 完全に鳥にはならないって言うが、現状ほとんど鳥だな……

「じゃあ、えっと……」
「私はラベンダーといいます」

「知ってるかもしれないけど、俺はリョウって言うんだ。改めてよろしくね、ラベンダーさん」

「はい、よろしくお願いしますね! リョウお兄さん!」


 食堂に着くと、テーブルにはパンと大きい鍋が置かれていた。


「お、やっと来たかい。おはようさん!」

「おはようございます。朝食、お誘いありがとうございます」

 頭を下げてお礼を言うが、女将さんは笑い飛ばす。


「あっはっは! あんた、若いのに相変わらず馬鹿丁寧だねぇ。ま、だからこそ一緒に飯を食おうと思ったのさ!」

「お母さんが、男の人を誉めるのは久しぶりなんだよ! すっっごく珍しいんだから!」

 馬鹿丁寧って、褒め言葉なのか……?


「あはは……ありがとうございます」

「と言っても、いつもと食べるものは同じだけどねぇ。 たまには違うものが食べたいんだが……」

 うーん、何かお礼に作ろうかな?


「今って、材料なにがありますか? 簡単なものなら、俺が作りますよ?」

「あんた! 料理できるのかい!?」

「普段は独り暮らししてまして、育てた野菜を使って簡単な料理を作ってますから」

 女将さんの食い付きがハンパないな……本当に、料理が苦手なんだな。


「野菜はあまり無いが、肉や香草の類いなら残ってるねぇ」

「それなら一品くらいは作れるかもです。見せてもらっていいですか?」

「あいよ! ラベンダー、案内してやっとくれ」

 ん? 女将さんが案内してくれるんじゃないのか。
 先日はたかれた件があるから、遠慮したいんだが……


「ふぇ!? お母さんが案内するんじゃ……」

「ラベンダー、あんたが男性を苦手にしてるのはわかってる。でも、この人は信用できるよ」

 え!? 男性苦手だったのか……
 それで最初に会った時に、気付いてなかったのもあって大声を上げちゃったのかな。
 でも、それ以降はあまり苦手そうには見えなかったけど。 


「それにね、料理の腕はラベンダーの方があたしより上だろう? だから、この人が料理を作るのを見ておいで」

「……でも、私まだお父さんのシチューも完全には作れないし……」

 女将さんは頭を横に振った。


「むしろ、あたしは旦那に教わったシチューしか満足には作れないんだよ?」

 旦那さんがここのシチューを開発したんだな。
 会ったことはないが、どこかへ出掛けてるのだろうか?


「ラベンダーは料理自体が好きなんだから、あたしを越えるのなんかあっという間さ!」

 女将さん、いつも通りの笑顔なんだが……どこか寂しそうな雰囲気が……


「お母さん……」
「そんな顔するんじゃないよ! あたしは、ラベンダーがやりたいことをやって欲しいのさ」
 
 女将さんがラベンダーの頭を優しく撫でながら続ける。


あの人旦那だって、生きてたら同じことを言うはずさ」

 旦那さんは、既に他界しているのか……


「いつも宿の手伝いを頑張ってくれるのは嬉しいよ。でもね、どんなに人気があってもあの人旦那があたしに教えてくれたシチューだけを作ってるわけにはいかないのさ」
「……うん……」

「はっきり言って、あたしには料理の才能がない。どうしたら美味しくなるとかもわからない。でもラベンダーは違うだろう?」

「うん。作るのは、楽しいから……」

 しっかりうなずいたラベンダーの目からは、力強い思いを感じられるな……


「今のラベンダーなら、シチューだってすぐに覚えられる。そして、もっと美味しく出来るはずさ」

「うん。私、頑張るよ!」

「その意気だよ! さて」

 女将さんは、一区切りついたのかこちらを振り向いた。


「待たせちまって悪かったね。」

「いえ……というか、俺の料理でいいんですか?」

「あんたまで気を遣ってんじゃないよ! いろんな料理を見れば、それだけ出来ることは増えるもんだからね!」

 ……それを女将さんがやれば良いのでは──


「あんたもそんな目をするのかい? あたしはね、元々料理をするのが好きじゃないんだよ。細々とめんどいじゃないか……」

 料理を面倒って……まさか、家事全般が苦手だったり……
 考えていたことが顔に出ていたのか、女将さんの表情が険しくなっていく……


「あんた、それ以上余計なこと考えない方が身のためだよ。……さっさと行きな!」

 ラベンダー共々背中を押されて(俺はどつかれて)、俺達は慌ててキッチンに向かった。
 なんで毎回こうなるんだかな。……いてて
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