園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙

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1章 冒険の始まり

24話 この世界の犯罪とは

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 俺が目を開けると、くすんだ木の天井が目に映る。
 ここは……? あれ? 俺は、外にいたはずじゃ……?
 どうやらベッドに寝かされているようだが……

 ふと、右手になにかを掴んでいるような感触に気付いて、右手を顔の前に持ってくると、それは木の柄の一部だった。


「これは、俺の槍の……柄? あっ……タンジーは!?」

 戦っていたことを思い出し、焦って起き上がると──


「痛だっ!?」

 全身にずきずきした痛みを感じて、再びベッドに倒れ込む。
 痛みに悶えていたが、右を向いた時にタンジーが見えた──


「タンジー!? う……痛って……」

 またもや急に起き上がったため、痛みは出たが、それよりタンジーが気になった。
 見た感じ外傷はないが、あの男に攻撃されていたはずだが……


《リョウさん? 起きましたか?》

 ブレンの声が聞こえたが、近くには見当たらない。
 その時、ドアを突つくような音が聞こえて、一拍してからドアが開き、小鳥が部屋に飛び込んできた。


《無事に目覚めたようで良かったです。HPは回復していますが、状態異常で痛覚がまだあるようです。ポーションを飲むと軽くなるはずですよ》

 肩に止まったブレンに言われるまで、ポーションのことが頭から抜け落ちていた。
 と、そこに──


「リョウさん! 無事で良かった!!」

 サラさんが、部屋に入ってきて抱きついてきた!?


「ぎゃっ!! ちょ、サラさん! マジで痛いんで、離れ……うぎゃー!!」

 絶叫を上げて、俺はまた気絶した……



「申し訳ありませんでした……」

 頭を深々と下げているサラさんに謝られて、思わず苦笑する。
 全身に痛みがあったとは言え、抱き締められただけで気絶するとは……
 ブレンが痛みの弱い箇所を突ついて起こしてくれなかったら、またしばらく起きなかっただろう。


「次から気を付けてくれれば大丈夫ですよ。ブレンも、起こしてくれてありがとな」

《いえ、リョウさんのサポートは私の役目ですから。でも……戦闘時にはお役に立てず──》

「ストップ。槍、頑張って持ってきてくれたし、アドバイスくれたろ?」
《ですが……》

「あれがなければ勝てなかった。だから気にしなくて大丈夫だよ」



 目が覚めてすぐに、戦った相手の男の事を聞いたが、どうやら倒しきれていなかったらしい。
 俺の止めを刺しに来たが、あの男の仲間だったプレイヤー達が通報していたらしく、門番に取り抑えられたそうだ。


 この世界の生物は、皆AIが組み込まれている。
 しかも、長い時間を過ごしているから、現実の生命と大差ない対応ができる。
 それゆえにこの世界では、モンスター以外の生き物を理由もなく襲うことは、規約で禁じられている。


 今回あの男は、ぶつかってきたタンジーに腹を立てて殺害しようとしたり、俺を庇ったタンジーを蹴っていたぶっていた。
 恐らく規約に引っ掛かり、当面のアカウント停止、悪ければアカウントの永久凍結になるはずだ。


 まあ、仮にまたログイン出来たとしても、犯罪者プレイヤーとして各町に通告されているはずだから、もう悪さをするのは難しいだろう。


 ……今回は、守れて良かったな……


《……さん、リョウさん? 聞いてますか?》

 やべ、考え込んでて聞いてなかった……


「ごめんブレン、考え事してた……」

《やっぱり聞いてなかったんですね……まあいいです。リョウさんですし》

「すみません……」

 呆れたようにため息をついたブレン。
 ……小鳥の見た目でため息つくと、ピーって声も一緒に出ちゃうんだよな。
 やば、かわいくてにやけそう。


《……なにをにやにやしてるんですか?》

「ごめん。仕草がかわいくてつい……」

 ブレンの頭を人差し指で撫でながら謝る。


《……もう、撫でて誤魔化さないで下さい! ……でも、もう少し撫でてくれたら許します》

 これがツンデレってやつなのかな。すごいかわいいんだけど!


「リョウさん? その……私も頭を撫でてくれたりしません?」

 思わずブレンを撫でる手が止まる。ちらっと横目でサラさんを見ると、すごく羨ましそうな顔をしてこちらを見ている……
 ……なぜに……?


「えっと……あ、そうだ! タンジーにポーション使いましょう! まだ予備があるので!」

 いそいそとストレージからランクⅡポーション体に良さそうなヨモギポーションを出して、タンジーに使用する。
 タンジーに淡い光が降り注ぐ。これでタンジーは大丈夫!

 ……こそっと横目でサラさんを見ると……
 めっちゃむくれてる!


「タンジーに、ポーション使ってくれて、ありがとうございます!!」

「……どういたしまして」

 笑顔なのに、この威圧感! 滅茶苦茶怖い……


《リョウさん、つくづく、ヘタレですねぇ……》

 いやいや、あまり親しくない女性の頭を撫でるとか、ハードルが高すぎるだろ……


「あ、そういえば今って何時くらいだろ? 外が暗いけど……」

「《そろそろ二十三時です》よ!」

 げ……戦ってから、七時間くらい過ぎてる!?


「あ、ありがとう、ございます……じゃあ、そろそろログアウトしなきゃですから、一度宿に帰りますね」

「泊まっていって下さってもいいんですよ? まだ本調子ではなさそうですし──」

 俺は無言でストレージから、ランクⅡポーション濃い青汁ポーションを自分に使用した。


「これで、動けるから大丈夫です! 女将さんに無言で外泊するわけにもいかないですから」

 うぅ……サラさんの方向からすごい圧力が……絶対向いてはダメだ。
 回復したのは、泊まるのが怖いからじゃないんだぞ! 宿に帰らなきゃならないからだ!


「……そうですね。では、明日また、来てくださいますよね?」

「……はい」

 他に回答のしようがない……


《リョウさん……》

 ブレン、今はなんも言わないで……



 早々に宿に戻り、女将さんに声を掛けたら部屋へ引きこもった。

 ……なんか、女将さんから威圧を感じた気がするけど……気のせい……だといいなぁ。
 


「さて、俺はログアウトして、こっちが朝になったら戻ってくるつもりだけど。ブレンはどうするの?」

《私もここで休みます。夜に出来ることはあまりありませんからね》

 夜の森は危険すぎるもんな。採取とかも難しいだろう。


「了解。それじゃブレン、また明日!」
《あ、リョウさん! 一つ鍛冶屋さんから伝言があります!》

「鍛冶屋さんから?」

 そういえば、戦ってた場所は鍛冶屋の前だったか。
 もしかして苦情かな……


《時間の空いてるときでいいから、タンジーちゃんと一緒に来て欲しいそうです》

「えっと……怒ったり、してた?」

《え? うーん……そうは見えなかったですよ?》

「そっか。なら、いいんだけど……」

 うーん、怒ってないならなんの用なんだろう?
 タンジーも一緒にってことだけど……


「まあ、行けば分かるよな。じゃあブレン、今度こそまた明日な」
《はい。リョウさん、お休みなさい。また明日、お待ちしてますね!》

 ブレンは顔の横に飛んできて頬擦りをしてくる。
 俺はブレンをそっと撫でると、ログアウトした。
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