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1章 冒険の始まり

19話 村のお悩み相談所

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「つまりタンジーちゃんは、お礼としてこのおじさ──」
「お 兄 さ ん」
「……お兄さんに村の案内をしていたんじゃな?」

 おばあさんの威圧耐性が低いのか、タンジーの威圧が強すぎるのか……


「そうだよ! お兄さんがききたいことあったみたいだから、おばあちゃんをよぶところだったんだけど……」
「悪かった! ワシが悪かったから、威圧は勘弁しておくれ!」

 地面に頭を擦り付けそうな勢いで謝罪するおばあさん……
 もはやトラウマと言っていいくらいの怯え方だな。



「それで、おじ──お兄さんはなんのご用かの?」

「その、急ぎの用事ではなくてですね……ポーションの材料とかもあるのかな? ……という程度なんですが……」

「……ワシは、その質問のために、こんな目に……?」

「……なんかすみません……」

「いや、確かにワシも悪かった。でも、一言いいかのぅ?」

 そう言いながら、おばあさんは息を吸い込んで──
 あ、これ耳塞がないとやばい──


「薬屋なんだから、あるに決まっとろうが!!」

 おばあさんは、今日一番の絶叫をあげた。
 ……すみませんでした……



「次はね、村の人たちがこまったときにそうだんしに行くばしょで、その名もそうだんじょだよ!」

 タンジーに案内されること数分、宿屋の次くらいに大きい建物に着いた。


「それだと、俺にはあまり関係ないかな?」

「ぼうけんしゃの人むけのいらいもあるから、マネお金をかせぎたいときはここがおすすめなんだ!」

 なるほど、村の依頼を取りまとめている場所なんだな。
 それなら確かに見ておくのが良さそうだな。



「おじーちゃん、こんにちはー!!」

 タンジーが建物に入って声をあげると、やはり背筋がしっかり延びているおじいさんが歩いてきた。
 ……むしろ走ってる? 動きは歩いてるように見えるのに、妙に早い……


「おお! タンジーちゃんじゃないか! おじいちゃんに、何かご用かい?」

「うん! ぼうけんしゃのお兄さんをあんないしてきたんだ!」

「こんにちは。昨日から宿にお世話になっているリョウと申します」

 俺が挨拶をすると、おじいさんはちらりとこちらを見て、


「ほう……冒険者にしては礼儀がなっておるな……」

 と呟いた。……聞こえてますけどね。


「ワシはここでマスターをしてるガジュマルという」

 向かいあって分かったが、かなり鍛えられた体をしている……
 これは、未だに鍛練を怠ってないんだろうな。


「普段は娘が受付をしてるんだが、今は他の町に用事で出掛けておってな」

「そうでしたか。しばらくはこちらに滞在するつもりなので、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしく頼むぞ! 手付かずになっている困り事を解決してくれたら報酬に色を付けるでな」

 手付かずになっているとなると、難易度は高いのだろうか……


「なあに、無理にやれなどとは言わんぞ? 自分の力量に見合った依頼をこなしてくれたら万々歳じゃ!」

 いつの間にか難しい顔をしていたらしく、そんな風に言ってくれた。
 なんとも気持ちのいい話し方をする人だなぁ。


「分かりました。ちなみに今はどんな依頼があるんですか?」

「ふむ、簡単なものから厄介なものまであるが……」

 おじいさんはチラッとタンジーを見ると、

「今はタンジーちゃんに村を案内してもらっているのじゃろ? 後日時間があるときにしてみたらどうじゃ?」

「確かに、そうですね──」
「お兄さん、うちからのいらいもあるから、できたらそれだけでも見てほしいなぁ……」

 他の場所へ行こうかと思ったが、タンジーに引き留められた。
 サラさんの所で出してる依頼か……店を開けていないのと関係あるのかな?


「おじいさん……じゃなかったマスター、そういう訳なんで、サラさんの所の依頼だけでも見せて貰えませんか?」

「ワシのことは好きに呼んで構わんぞ? しかしタンジーちゃんはしっかりしとるな……少し待っておれ」

 マスターは素早くカウンター内に入っていく。
 歩いてるようにしか見えないのに、まるで地面を滑るような動きだ……


 僅か一分程度でマスターが、なにかの紙を持って戻ってきた。


「待たせたの。これがサラさんからの依頼じゃが……来たばかりの冒険者には辛いのではないか?」

 一体どんな内容なんだろうか?


『採取依頼』


〖ザワメキ森林から十種類の花の種を採種〗

〖一つの品種につき、最低十粒から〗

〖報酬は基本千マネ、種の種類と数により追加報酬有り〗


「種を集めてくる依頼か……でも、そんなに難しいんですか?」

「うむ……まず第一に、どれが花の種か分かる冒険者は少ないじゃろう。花としての価値がない植物もあるのでな」

 確かに、普通なら分かる人は少ないかもしれないな。


「第二に、追加の報酬が恐らくじゃがあまり用意できんだろう。セージの治療費として、かなり切り詰めた生活をしておるからな……」

 報酬額は最低が千マネだ。品質Ⅰのポーションが一つ十マネだから、ポーション百個分……
 多いのか少ないのか、いまいち分からないな。


「マネの価値があまり分からんようじゃな? 仮に町でザワメキ森林の採取依頼があったとしたら、最低でも二千マネ程は報酬があるはずじゃ」

「つまり、難易度に見合わない報酬額だということですね?」

「そうじゃな。ザワメキ森林に挑むならば、レベルが二十近くなければ厳しいじゃろう」

 なるほど……でも、俺なら種を集めること自体は苦労しないだろう。
 報酬が少ないのは、まあ……事情を知ってるからな。気にする程の事じゃない。


「マスター、これの期限っていつまでですか?」

「特に期限は設定しておらんようじゃが……お主、やる気か?」

「はい。実は自分、植物に携わる仕事をしてますから。この依頼に向いてると思うのです」

 しかも店長やってますからね。ある程度の、種の見分け方はわかる。


「しかし……お主レベルは……」
「やらせてください。この依頼、サラさんのお店が開いてないことと無関係ではないですよね?」

「うむ……」
 マスターは渋い顔でこちらを見ていたが、


「分かった。この依頼はお主に任せよう。だが、決して無理をしてはいかんぞ?」

「分かりました! ありがとうございます!」
「おじいちゃん、ありがとう!」

 タンジーに抱きつかれたマスターの顔はでれでれだ……
 さっきまで、あんなに凛々しい顔だったのにな……
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