園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙

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1章 冒険の始まり

10話 気風のいい女将さん

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 空腹から若干ふらふら歩いていると、前方にこの村の中ではかなり大きい二階建ての建物が見えてきた。

 近付いてみると、入り口にINNの看板もある。間違いないみたいだ。

 しかし……近くで見るとちょっとボロいな……

 ドアを開けて中に入り「こんにちは」と声を出すと、正面のカウンターにいる恰幅のいいおばさんが挨拶を返してくれた。


「いらっしゃい! こんな何もない村によく来たね! 宿泊でいいかい!?」

 かなり元気に挨拶をしてくれた。なんとも、勢いがすごいな……


「食事と宿泊でお願いします。 今から食事ってお願いできますか?」


 とにかくすぐに食事がしたくて聞いてみたが、何故か申し訳無さそうな顔をされてしまった。
 

「済まないねぇ……実は昼食の仕込みをしている途中で、まともなものは出せそうにないんだよ……」

「マジですか……なにか、少しでも食べれそうなものはないんですか……?」

「……そうだねぇ……すぐ出せるのは、昨日の残り物か焼いた肉くらいなんだよ……それでも大丈夫かい?」

「はい、それでお願いします! ……すごくお腹空いてるもので……」


 切実にお腹が空いていることを伝えると、おばさんはぽかんとした顔を浮かべたあとに笑い出した。


「あっはっは、そうかいそうかい! じゃあ、向こうにあるテーブル席に座っていておくれ。急いで用意するよ!」


 そう言って指を差した方を見ると、テーブルや椅子が複数置いてあった。

 ……が、やっぱりかなりボロいなぁ……


「分かりました。あ、あとこれを……」


 宿屋のおばさんにサラさんから貰った紙を渡した。


「うん? なんだいこれは? ……タンジーの命の恩人って…… あんた、一体何をして来たんだい?」


 手紙を読んだおばさんは、逆に不審そうな顔で質問してきた。

 ……なぜだ……


「実は森からこの村に来る途中、助けを呼ぶ声が聞こえまして……急いで行ってみたら、タンジーさんが怪我をした上に狼に囲まれていたんです」
「なんだって!?」


 急におばさんからもの凄い殺気のようなものが吹き出してきたように感じられて、思わず脂汗が吹き出してきたぞ……!

 
「あの、ちゃんと助けて応急措置してから家まで送ってきましたから!」


 そう言うと、おばさんは普通のおばさんに戻ってくれた……

 恐ろしい……生きた心地がしなかったぞ……


「ふうん……ザワメキ森林の狼達からあんた一人でねぇ……?」


 恐ろしい感じはしないが、茶苦茶疑われてるなぁ……

 まあ、仕方ないか──


「あんた見た目よりやるじゃないか! 気に入ったよ!! 今回の食事と、宿泊費は只にしてやるよ!」


 いきなり背中をバシバシ叩かれながらそんなことを言われてしまった。

 おおう、疑われてはいなかったのか……


「いたた……って、そこまでしてもらうのはなんか申しわ「いいんだよ!あたしが決めたんだから!」……はい、ありがとうございます」

「そうそう、挨拶が遅れたけど、あたしはここの女将をやってるマーガレットだ。よろしく!!」

「あ、俺──自分はリョウと言います」


 予想を遥かに越えて気風がいい女将さんだった。



 大分年季の入った椅子に座って待つこと数分、女将さんがパンとステーキとサラダを持ってきてくれた。

 軽食と言うにはなかなかのボリュームだな。


「お待たせしたね! うちの名物は煮込み料理なんだが、さっきも言ったようにまだ仕込みの途中でね……あと二時間は煮込まないと出せないんだ」

 煮込み系か……食べてみたかったなぁ


「そんな訳で今出せるのは、あり合わせのサラダと昨日の余りのパンと肉位しかなくてね……」

「いえいえ、十分ですよ! 代金を只にしてもらっているのに、文句を言ったらバチが当たるってものです」

「そうかい? じゃあ、しっかり噛んで食べるんだよ!食べ終わったら、食器はテーブルに置いたままでいいからね!」


 そう言って女将さんはカウンターに戻って行った。


「いただきます!」


 早速手を合わせて二センチ位の厚さのステーキにかぶりつく。
 フォークしかないから、かぶりつく以外には無いんだが……食べにくいな。

 うーん、焼き具合はミディアムで、味付けは……塩だけみたいだな。
 これは猪肉かな? 肉のクセが強いから、ちょっと微妙……


 木の実が入ったパンもかじってみるが、堅い! 歯が欠けそうだ……

 味は悪くないが、これはなかなかに食べにくいな……
 スープとかあれば、浸して柔らかくしてから食べたらいいんだが……

 とりあえず、ステーキの肉汁をつければなんとか食べることはできそうかな。


 サラダは、味付け無しの数種類の葉物だな。
 これは……せめて塩で軽く味付けしたいな,



 数分かけて黙々と食べ、しっかりと完食する。

 ……うん、美味しいとは言えないけどお腹は一杯だ!


「ごちそうさまでした!」

「おや、食べきったのかい! パンは一回冷めてるから堅いだろうし、肉は味付けが不十分だから残すもんだと思ってたんだがねぇ……」

「出された物を無駄には出来ませんから……って、味付け不十分なんて言い切らないで下さいよ……ここ食事処も兼ねてるんですよね?」

「仕方ないだろう? 事実なんだから……村人は昼か夜しか食べに来ないのさ。だから、合間の時間は煮込み料理に時間をかけて作ってるんだよ」


 ふむ、宿屋で食事をする人は昼か夜だけなんだな。


「それに、ステーキなんかは普段出さないから味付けが苦手でねぇ……申し訳ないとは思うが、勘弁しておくれよ」

「え……いつもはステーキって、普段出してないんですか?」

「ここらで主に取れる肉は熊か猪なんだが、どっちも癖が強くてねぇ……煮込まないと食べれないって人が多いんだよ」


 全く、わがままな人が多くて困る! と、女将さんは苦笑していた。


「それに、ステーキ自体が硬くて食べにくいからってのもあるし、食べる人が全然居なくてねぇ……あんたはまだ若いし、空腹だったみたいだから食べるかもと思って作ったのさ」

「なるほど……村の食事事情って訳ですか。それなら致し方ないですね。わざわざ作っていただいて、ありがとうございました!」


 お礼の気持ちを込めて頭を下げたのだが、女将さんは困ったような顔をした。


「頭を下げるんじゃないよ! こっちが申し訳なくなっちまうからねぇ……」


 この女将さんは、本当にまっすぐな人だなぁ。


「出来たら今度は中途半端な時間じゃなくて、ちゃんとした食事の時間に煮込み料理を食べに来て欲しいね! あんな不味いものばかりを出す店だと思われたかないからね!」

「分かりました。楽しみにしてますよ! では自分は一度ログアウトしたいので、泊まる部屋を教えてもらえますか?」


 すると女将さんは驚いた顔になった。

 なにか変なこと言ったかな?


「あれま……あんた、冒険者だったのかい?」


 ああ、そこだったか。

 何というか、すごい意外なものを見たって顔してるな……


「……よく森を抜けて来れたねぇ。冒険者って、今日からこっちの世界に来たんだろ? 来たばかりだと相当弱いって聞いてたんだがね?」


 へぇ……俺達プレイヤーがこの世界に来るのは、この世界の人々に周知されていたんだな。


「あはは……死にかけましたけど、どうにかって所ですよ」

「そりゃあねぇ……森にはレベルが二十越えた奴らがわんさか居るからね。そんな所からタンジーを助けてきたってんだから、本当にびっくりだよ」


 女将さんは身振り手振りでびっくりしたと言うが、あまり驚いてるようには見えなかった……

 おそらく、女将さんにとっては森の魔物はそれほどの脅威に見えてないのかも……?


「おっと、ログアウトするんだったね? 部屋はこっちだよ!」



 そう言って女将さんは二階に登っていく。

 女将さんに付いていくと、二〇一とプレートが付いてる部屋のドアを開けていて、


「この部屋でいいかい? 壁はボロいが、家具はしっかりしてるよ!」

「あはは、問題ないですよ。横になれる場所があれば大丈夫ですし」


 確かに壁や床は経年劣化でボロい感じだが、家具は新品同様だ。むしろおもむきがあっていいくらいだな。


「言ってくれるねぇ! だが、素直なのはいいね! なんかあったら遠慮なく言うんだよ?」


 そうそう、と女将さんは思い出したように付け加えた。


「昼飯は十一時から十三時、晩飯は十八時から二十時だから、遅れないようにするんだよ! じゃないと、また残り物になっちまうからねぇ」

「分かりました。ご丁寧にありがとうございます!」

「それじゃ、ごゆっくり!」


 そう言うと、女将さんは片手を上げて降りて行った。
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