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1章 冒険の始まり

6話 チュートリアル ~収束~

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 最後にボソッと何か言ったような気はしたが、戦闘中だからと頭を切り替える。


「ナビさんは敵の攻撃を分かる範囲で教えてくれ。攻撃の種類とタイミングさえ分かれば、避けやすくなるから!」

《分かりました》


 そう言って、俺は小走りで狼に突進する。


「行くぞっ!」


 狼の動きはしっかりとしていて、先程俺が攻撃で与えたダメージは治まってしまったようだ。

 こちらが接近すると、狼達は左右にバラけて交互に攻撃を仕掛けてくる。

 最初のように同時攻撃はしてこないし、こちらの動きを先読みするようにかわしている。


《左後ろ、飛び上がりからの引っ掻きです。 二……一……来ます!》


 見えていない方向からの攻撃は、ナビさんの指示のお陰でどうにか避けつつ反撃をするが、回避されてしまっている。

 どうやらこちらの攻撃パターンを予測しているか、学習されてしまったようだな……


「これじゃ埒が明かないな……なら、一か八か──」


 槍を構える時、俺は普段右手を槍の柄頭から20cmほど空けて掴み、左手は更に20cm先で掴んでいる。

 しかし、ここで持ち方を変えて意表をついてみようと思った。

 狼が俺の攻撃範囲を見切ってかわしているなら、当てることができるかもしれない。

 これで倒せなければ、また学習されて更に倒しにくくなるが……迷ってもいられない。

 悩むうちに距離を詰めてきていた狼の噛み付き攻撃を体を半身にしてかわし、槍の柄を使ってもう一匹のいる後方に突き飛ばす。


「グガァッ!!」


 突き飛ばした狼は着地体勢をとれていたが、後方から迫ってきていた狼は仲間が飛んでくるのは予想できていなかったらしく、顔面にぶつかったようで呻き声を上げた。

 この隙に右手を柄頭ぎりぎり、左手はそのままで構えて、狼に特攻する。


「うおぉぉっっ!」


 狼はまた左右にバラけたが、右に避けた方を狙って突っ込む。

 狼は木立の間を逃げ回っていたが太い樹に飛び付くと、体のバネを使って一気に距離を詰めてきた。


「グオォゥッ!」


 猛烈な勢いで突っ込んで来る狼に、右手を引き絞りながら左手で狙いを澄まし、体重を掛けて一気に打ち放った。


「はぁぁっ!」


 俺の渾身の一撃は、口を開けていた狼のど真ん中を貫通して消滅させたが、強い衝撃で槍を取り落としてしまった。


「うぐっ……右手に力が入らない……」


 左手で槍を拾うも、ちらっと見た俺のHPは既に5を切っている……次に衝撃を受けたらやられてしまいそうだ。


《リョウさん! 後方、来ますよ!》


 ナビさんの声に慌てて振り向くと、木立の間をすり抜けるように狼が急襲してきた。


「やばい! このままでは……!」

《接触まで約四秒です!》


 なんとか左手を主軸にして槍を構えたが、右手は力が入らず矛先が震えてしまう。

 どうする……? なんか手はないか!?

 距離を詰めた狼は、二メートルほど手前で踏みきって飛びかかってきた。


《噛み付きです! 避けて下さい!》

「うわあぁっ!」


 咄嗟に槍を左手で思いっきり投げた。

 その勢いで体勢を崩して左に転がるが、すぐに起き上がって状況を確認する。

 俺の投げた槍は運良く狼の開いていた口に入ったみたいで、それと狼自身の勢いもあって狼のHPを削りきって消滅させたようだ。



「はぁぁぁ……助かったぁ……」


 全ての敵が消滅して安心した俺は、起き上がりかけた体勢から脱力して地面に突っ伏した。


《リョウさん、お疲れさまでした。まさか、直撃を一回も受けることなく倒すとは思いませんでしたよ》

「いやぁ、現実でのスズメバチの大群相手にするよりはいくらかやり易かったよ。とは言っても、目の前で噛みつかれそうになったりするのは、すごく怖かったけどな……」


 そうボソッと言った俺は、倒れている子供の事を思い出して、慌てて立ち上がった。


「あっ、さっきの子供は!?」

《前方、五十メートル程先で倒れたままです。さっき見た様子からすると、応急処置をしなければ間に合わないと思われます……》

「応急処置!? ……手持ちに回復するものも何もないのに……どうすれば……?」


 解決方法は浮かばないけれど、とにかく子供の所に急がないと……

 思考を打ち切った俺は、子供がいる方向に小走りで向かう。

 ──と、その時俺は足元にヨモギのような草を見つけた。


「ナビさん、この草はヨモギか? 止血に使えないかな?」

《この草はヨモギ草です。ポーションの素材になるものですが、そのまま使うには効果が弱いと思われます》

「応急処置に使うには申し分ないな! ちなみに、ポーションの他の材料は?」

《ポーションを精製するなら花の蜜や蜂蜜が必要ですね。効果は下がりますが、水や浄水でも可能です》


 つまり水分が必要なのか。

 ヨモギ草を五本ほどストレージに放り込み、周りを見渡すが樹木や草ばかりでそういった水分の類いは見つからない。

 そうしている内に子供の元に着いたが、出血は完全には止まっておらず、顔も青ざめていた。


「これは……まずいな。貧血になっていそうだ」


 俺は急いで摘んだばかりのヨモギ草を手で細かく千切ると、両手を使って力を込めてすりつぶす。

 ちょっと雑だが潰したヨモギ草を子供の傷口に塗布すると、一瞬淡く光り出血が止まったようだ。


「おおっ、意外とすごい効果だな!」

《ええっ!? こんな……すぐに止まるほどの効果があるはずは……》


 何故かナビさんが驚いているが、子供の顔色を見るに予断を許さない状況だ。


「ナビさん、村までの案内を頼む! 早く連れて行かないと!」

《分かりました》
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