両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven

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魔力切れ

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「とても綺麗な部屋だね」

 そう呟くけれど、ルリの言葉は返ってこなかった。

「ルリ?大丈夫?」

 振り向けば、ルリは顔面蒼白で今にも倒れそうな表情をしていた。

「ルリ!?」

 駆け寄ってひとまず部屋の中に倒れ込ませる。残念ながら私にはルリをベッドまで運ぶ力はなかった。

「少し呼吸が浅い。脈も平常とは言えない」

 きっと魔力切れを起こしているのだろう。今じゃ滅多に起こらないけれど小さい頃はこんな症状でよく倒れていたのを思い出す。その時はルリに介抱してもらっていたっけ。いやそんな昔を思い出している暇なんてなくて。魔力切れは最悪の場合死にも至ってしまうから早く手当しなければ。

「ルリ、この回復薬を飲めば少しは楽になるよ」

 瓶に入った回復薬をルリの手から取り、ルリの口元に近づけた。ちゃんと意識はあるみたいで自分から回復薬を飲んでくれた。

「どう、楽になった?」
「……あ。ごめんなさい。リュシエンヌさま」

 回復薬がすぐに効いてくれたみたいだ。ゆっくりと体を起こすルリの背中を軽く支える。

「大丈夫だよ。多分魔力をながしすぎたんだね。あれはほんの少しだけ流せば反応するから頑張らなくても大丈夫だったんだ」
「今度教えてくださいますか」
「うん。わかったよ」

 ルリは自分で立ち上がったが、ふらっとよろけた。倒れてしまうほどではなかったが、まだもう少し休んだ方がいいだろう。

「ルリ。あと30分ぐらいは休んでて。私も一緒に休むから」
「ですが……」
「命令するよ?」
「わかりました」

 ルリの納得がいってなさそうな顔を見てから私は立ち上がった。

「じゃあティータイムにしようか」

 私は収納されていたティーセットを取り出した。

「今日はどの紅茶にしようかな」
「リュシエンヌ様、紅茶なら私が」

 ルリは私に近づこうとする途中でまたふらっとよろけた。

「その体で?大人しく椅子に座っていてください」

 私が目を光らせながらそう言えば、ルリはおとなしく椅子に座った。その様子を見ると少し罪悪感があったけれど仕方がない。

「それに久しぶりに私が紅茶を入れたいの。ルリよりはすごく下手だけれど、入れるって工程はとても好きだから」

 私はティーポットに入ったお湯がだんだんと染まっていく様子がとても面白くて好きなのだ。いつまでも見ていられるなとか考えていればすぐに飲み頃になってしまう。

「はい、ルリ」
「ありがとうございます」
「あ、だいぶ良くなってきたみたいだね」
 
 紅茶を出せば元気の戻ったルリがそこにいた。顔色もさっきより血色が良くなってきている。まぁ完全にとはいかないけれど。

「うん。やっぱりルリの方が美味しいね」
「そうですか?私はリュシエンヌ様の紅茶もとても美味しいと思いますけれど」
「ルリにそう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」

 他愛もない会話をしながら紅茶を飲むけれど、やっぱり口寂しい。紅茶に合うお菓子を用意しておけば良かったかな。まぁでもたまにはこんなものいいよね。
 
「そうだ、今度紅茶の淹れかた教えて?」
「はい。もちろんです。けど」

 私の申し出に笑顔で答えたルリだけど一変して考え事をするような表情を見せた。

「リュシエンヌ様が私よりお茶いれること上手になってしまったら私の立場が危うくなってしまいます」

 と真面目な顔でルリは言い放った。その表情があまりにも真剣すぎて私は思わず笑ってしまった。

「なんで笑うのですか?重要なことなんですよ!?」

 ルリのその叫びすら私のツボをさらに押してしまい私が笑い終わるまでしばらくかかってしまった。
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