両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven

文字の大きさ
上 下
50 / 69

心配

しおりを挟む
「さ、ダリア様とダグラス様に会いに行こう」

 きっと今の時間は外の庭園でティータイムをしているはず。ダグラス様は非常にお忙しい方だ。それもフロライン公爵家に匹敵するほど。だけれど、一日に一回は必ずダリア様や私と接する機会を設けている。それに、数ヶ月に一度町にも一緒に出かけてくださるのだ。きっと私が来たからではなくて、それがダグラス様にとって当然のこと。その当然のことが私にとってはとても嬉しかった。

「ダリア様!ダグラス様!」

 二人仲良く会話しているところを邪魔するのは悪い気もしたが、思い切って声をかけた。そうすれば、ダリア様は椅子から立ち上がり私の方へ手を振ってくれた。ダグラス様もふっと軽く口を緩めた。

「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、早かったわね」
「何か言われたか?」

 私が二人のいるテーブルに近づけば、ルリが椅子を引いてくれる。ルリに感謝しながら座って話の続きをする。

「そうですね、やっぱり私がやったと決めつけているようでした。話し合いの価値はないと思ったので誓いをして帰ってきました」
「「「え」」」
 
 三人が同時に声を上げた。きっとそれは誓いを告げたという部分に対してなのだろう。

「説明してくれるか?」
「はい、もちろんです」

 一番最初に口を開いたのはダグラス様だった。

「閣下は私がリリアに危害を加えるのを危惧しているようでしたので15になるまで公爵家の方と関わらない誓いをしてきました。私としても戻るまでこれ以降公爵家と関わるつもりはなかったので好都合です」
「そう。あなたほどの魔法の使い手でもかなり疲れたでしょう?」
「そこまでは疲れていませんよ。現に魔法を使って帰ってきたわけですし、それに先ほどだって――」

 あ、口が滑りそうになった。怪我したことを心配させないために、治したのに自分で墓穴を掘るところだった。いや、もう遅かったみたいだ。笑みを浮かべているけれど、怒っている様子の二人が私をじっと見ている。

「先ほどだって、何かしら?」
「い、いえ何もありませんよ」

 隠そうと思ったが、声がわざとらしく裏返ってしまった。こんなんじゃ嘘をついているってバレバレじゃないか。

「ルリ」
「え、ちょっと――」
「はい、先ほどまで頬から血を流しておいででした」

 止めようとしたけれど、無理だった。こういう時だけルリは強情なんだから。全く誰に似たんだかね。それはそうと、二人がだいぶ怒っている。でも、今傷はないから心配することはないと思うのだけれど。

「傷でしたらもう見ての通り治しましたし、跡だって残っていませんよ?」

 そう補足をすれば、三つため息が聞こえた。

「そういう問題じゃないのよ、リュシエンヌ。跡が残るとか残らないとかそういうことを言っているんじゃないの。もう少し自分の体を大切にして。あなたの両親は心配しない方かもしれないけれど、私たちは違うわ。ルリだってそうよ」

 私はダグラス様、ルリの顔を順番に見ていった。そうすれば、二人ともダリア様の意見に同調するように頷いてみせた。そっか、私はまた心配をかけてしまっていたのだ。治せる傷、跡の残らない傷なら私は心配をかけないと思っていた。それにそこまで深い傷を負いそうであれば、すぐに避けていただろうし公爵夫人のことを返り討ちにできるほどの力もある。だから私は、心配をかけないだろうと思っていた。けれど、違うんだ。この人たちは私が傷を負うことや、そうなるかもしれないことを心配してくれているのだ。

「ありがとうございます。やっと認識の齟齬に気づけました。もう自らを傷つけに行くことはしません」

 そう正面をみて宣言すればダリア様は笑顔で頷いてくれた。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...