33 / 69
ルリと姉妹
しおりを挟む
「海、海ですよ!」
馬車に揺られること、六日。だいぶタルト子爵領に近づいてきた証に海が見えてきた。今日は、一日ネプトで気分転換だ。ルリが馬車の窓から見える海を見てはしゃいでいる。その様子を見るととてもじゃないが10以上年が離れているとは思えない。
「ここから見てもきらきらして見えるのだからきっと近くで見たらもっと綺麗なんだろうね」
「楽しみですね!」
でも私も相当楽しみにしている。今すぐにでも海に走って行きたいほどに。あ、そうだ。
「ルリ、これから私のことはリリって呼ぶこと」
ルリはなぜかわからないといった表情をした。
「王都から来た貴族であるってバレたら、きっと色々なことに巻き込まれるだろうから。私とルリは姉妹、いいね?」
「わかりました」
「敬語も外して」
海を見たことない私とルリ。そしてその言葉遣いや仕草、格好に名前をそのままにしていればきっとすぐに王都に住んでいる良いとこの貴族だってバレてしまう。そうすればスリや暴漢それに、人攫いにだってあってしまうだろう。いくら治安が良いとは言っても小さな穴を掻い潜る奴らがいるだろうから。
「今はご勘弁を」
困った顔をしながらルリは言った。まぁ、まだ街には入っていないから大丈夫だろう。それにしても、いつも着ているものより平民が着るものは生地が軽いな。だけれど、長く着られるように丈夫になっている。銀貨一枚だったっけ。平民の皆からしたら高い買い物だろう。だからこそ長く着ることができるように丈夫に作られているのだろう。ふと、気をつけなければいけないことを思いついた。
「街から少し離れた場所に馬車をとめるよう……余計なお世話だったみたい」
街に近いところに馬車を止めてしまったら、それこそ盗んでください、さらってくださいって言っているもののようだ。だからそう言ったのだが、もう既に御者はわかっていたみたいだ。街の雰囲気の欠片も感じさせない場所に馬車を停めた。後ろについてきていた護衛が扉を開けエスコートしてくれた。
「なんだか変な匂いがする」
「それはきっと海の匂いですよ」
私の呟きに護衛が答えた。
「海の匂いは、こんな匂いがするんだね。それに空気がベタつく感じ」
「それは、潮風のせいかと」
へぇ、海が近いとそういうものがあるんだね。王都とは全く違っていて面白い。
「ありがとう、教えてくれて。それじゃ行ってくるね」
「少し離れた場所から護衛させていただきます」
私はそう言って頭を下げる護衛を見てから、ルリの手を取って歩き始めた。
「リュシ」
「違うよね?」
歩き始めたにも関わらず、ルリは私のことを「リュシエンヌ様」と呼びかけた。だが、私が途中で睨みを利かせ止めることができた。ルリは眉をひそめた。ごめん、今だけ我慢してほしい。せっかく、普通の町娘の格好をしているのだから話し方も直さなければ意味がない。
「リリ、楽しみ、だね」
「うんっお姉ちゃん」
少しぎこちない様子で話すルリに不安になりながら手を繋ぎ街へ向かった。
馬車に揺られること、六日。だいぶタルト子爵領に近づいてきた証に海が見えてきた。今日は、一日ネプトで気分転換だ。ルリが馬車の窓から見える海を見てはしゃいでいる。その様子を見るととてもじゃないが10以上年が離れているとは思えない。
「ここから見てもきらきらして見えるのだからきっと近くで見たらもっと綺麗なんだろうね」
「楽しみですね!」
でも私も相当楽しみにしている。今すぐにでも海に走って行きたいほどに。あ、そうだ。
「ルリ、これから私のことはリリって呼ぶこと」
ルリはなぜかわからないといった表情をした。
「王都から来た貴族であるってバレたら、きっと色々なことに巻き込まれるだろうから。私とルリは姉妹、いいね?」
「わかりました」
「敬語も外して」
海を見たことない私とルリ。そしてその言葉遣いや仕草、格好に名前をそのままにしていればきっとすぐに王都に住んでいる良いとこの貴族だってバレてしまう。そうすればスリや暴漢それに、人攫いにだってあってしまうだろう。いくら治安が良いとは言っても小さな穴を掻い潜る奴らがいるだろうから。
「今はご勘弁を」
困った顔をしながらルリは言った。まぁ、まだ街には入っていないから大丈夫だろう。それにしても、いつも着ているものより平民が着るものは生地が軽いな。だけれど、長く着られるように丈夫になっている。銀貨一枚だったっけ。平民の皆からしたら高い買い物だろう。だからこそ長く着ることができるように丈夫に作られているのだろう。ふと、気をつけなければいけないことを思いついた。
「街から少し離れた場所に馬車をとめるよう……余計なお世話だったみたい」
街に近いところに馬車を止めてしまったら、それこそ盗んでください、さらってくださいって言っているもののようだ。だからそう言ったのだが、もう既に御者はわかっていたみたいだ。街の雰囲気の欠片も感じさせない場所に馬車を停めた。後ろについてきていた護衛が扉を開けエスコートしてくれた。
「なんだか変な匂いがする」
「それはきっと海の匂いですよ」
私の呟きに護衛が答えた。
「海の匂いは、こんな匂いがするんだね。それに空気がベタつく感じ」
「それは、潮風のせいかと」
へぇ、海が近いとそういうものがあるんだね。王都とは全く違っていて面白い。
「ありがとう、教えてくれて。それじゃ行ってくるね」
「少し離れた場所から護衛させていただきます」
私はそう言って頭を下げる護衛を見てから、ルリの手を取って歩き始めた。
「リュシ」
「違うよね?」
歩き始めたにも関わらず、ルリは私のことを「リュシエンヌ様」と呼びかけた。だが、私が途中で睨みを利かせ止めることができた。ルリは眉をひそめた。ごめん、今だけ我慢してほしい。せっかく、普通の町娘の格好をしているのだから話し方も直さなければ意味がない。
「リリ、楽しみ、だね」
「うんっお姉ちゃん」
少しぎこちない様子で話すルリに不安になりながら手を繋ぎ街へ向かった。
17
お気に入りに追加
4,543
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される
夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。
物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。
けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。
※小説家になろう様にも投稿しています

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる