両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven

文字の大きさ
上 下
25 / 69

うまくやれなくても

しおりを挟む
「ちょっと一回落ち着い――!」

 止めようとして力を入れた。そうしたら間違えて足にも力を入れてしまって傷が痛んだ。

「リュシー?」
「リュシエンヌ様、傷が?」

 私はルリの問いかけに頷く。傷を二人から隠すために、かけていた毛布を外すと包帯に血が滲んでいるのが見えた。これはすぐに取り替えなければいけないだろう。

「一度、お水を取って参ります」
「ありがとう、ルリ」

 ルリが部屋を出ていくと、強い視線を感じた。

「お二人とも、なんでしょうか?」
「何が、あったか。説明してくれる?」

 あ、またアルが怒ってる。黙っているけれど、レオン様もそうだろう。どうしよう。説明、はするけれどもう公爵夫人の懐妊の件を言ってもいいのだろうか。いや、もう二人とも知っているんだった。なら、隠す必要はないね。

「公爵夫人が身ごもられまして。その挨拶をした際、私の母を侮辱されましたので言い返したらこの有様です」

「クソ野郎」というレオン様。あの公爵家の方が使う言葉ではないのですが。

「傷、見せてもらってもいい?」

 アルが包帯の上から私の足を触りながら言う。もしかして、また魔法を使うつもりだろうか。

「いいけど、気を悪くしてしまうかも」
「それは大丈夫」

 私の返事を聞くなり、包帯を巻き取り始める。なんだか恥ずかしいな。こんなこと考えている場合ではないのに。

「だいぶ深い傷だね。僕だと治せないかも」

 包帯が全て外し終わり傷が露わになった。一生残ってしまうそうな傷。これが世間に知られれば、傷もの令嬢として蔑まされてしまうほどの。公爵家の評判を落とすためにはそれはそれでいいかもしれない。だが、第三王子の婚約者としてはふさわしくなくなってしまう。それは少し悲しいな。

「リュシエンヌ。俺が治してもいいか?」

 レオン様がそういった。レオン様ほどの方が魔法を使ってくだされば、きっとこの傷は簡単に癒えてしまうだろう。でも、そうなると公爵家の評判を落とすっていう企みは潰えてしまう。

「え、ちょっと!」

 そんなことを考えている間に、レオン様はもう魔法を使ってしまった。みるみるうちに皮膚は戻っていき、跡形もなく傷は消え去ってしまった。

「何か不都合が?」

 勝手に治しておいて、サラッとした表情でレオン様はいう。一言前の「治してもいいか?」はなんだったの?ただきいただけ?私の返事を聞いてからにしてもらいたい!

「不都合ってほどではないけれど、私にも少し考えることがあったんです」
「復讐、だろ?」

 私の頭を見透かされたような気がした。レオン様の一言で私は黙り込んでしまった。

「その沈黙は肯定と受け取らせてもらう。復讐したいっていうのは別に構わないが、自分の身を傷つけることはやめてくれ」
「叱らないのですか?」

 復讐だなんて企んでいたことを知られてしまえば怒られると思っていた。復讐は人の不幸を願う悪いことだから。レオン様はきっと私のことを怒るだろうと思っていたのに。その言葉をかけられてしまい、拍子抜けしてしまった。

「叱って欲しかったのか?」
「いえ、それは。ただ復讐なんて悪だと思っていたから」
「そんなの別に悪だなんて思ってない。ならリュシエンヌがいない世界が耐えられなくて二人を生贄にした俺はどうなるんだ?」

 冗談っぽくレオン様は笑った。なんだか考え込んでいた私がおかしく思えてきた。

「それに俺に言わせれば、リュシエンヌが考えていることは復讐には程遠いよ。俺だったら、公爵夫妻を廃人になる程追い込むし、十数年かけて育ったリリアをあいつらの目の前で殺すんだ」
「いや、私は」
「知ってる。そこまでは望んでない、だろ」

 私が思っている以上のことをレオン様はスラスラと口にした。きっとレオン様なら実際にやってしまいそうなこと。知ってると言ったレオン様の表情には少し危なげがあった。だから。

「違います。今回私がうまくやれなくてまたあの人たちによって命を落とすことになっても。レオン様にはそのようなことして欲しくないです。もう一度時戻しもして欲しくないです。もう私は今十分幸せですから」

 私はレオン様の手を握りながら、そういった。レオン様は納得が言ってないような表情をしていた。でも、頷いてくれていた。ルリがいてアルがいて、レオン様もいる。きっと前よりいい人生を歩める。いや、もう前よりいい人生を歩んでいる。だから一瞬、復讐なんてしなくていいのかも、って思ってしまった。

 それからルリが包帯やら水やらを色々持ってきたけど、傷がなくなっていてすごく驚いていた。そして、その表情を見て私は大笑いしてしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...