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動けない

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 朝の準備を終えて一息ついているころ、なんだか忘れていることがあるような気がして頭を抱えていた。

「ねぇ、ルリ。今日私なにかあったっけ?」

 一人では思い出せなさそうだったので、ルリに聞くことにした。そうすると、ルリはパッとした顔でいった。

「今日はブルーゲンベルク公爵のご子息様と第三王子殿下がいらっしゃられます。そのつもりで身支度をさせていただいたのですが……」

 あ。そうだった。手紙を出した翌日は私、一日中寝てたのだから今日が約束の明後日ということになるのだ。確かにいつもより入念に綺麗にされている自覚はあったが、ただ一日ぶりだからとしか思っていなかった。そんなことを考えていたら、扉をノックする音が聞こえてきた。ルリが対応する。

「リュシエンヌ様。ブルーゲンベルク公爵のご子息様がいらっしゃいましたとのことです」

 いつもの通り応接室に通されているのだろう。早く向かおうと思い地面に足をつけ、体重をかけた。

「痛ッ」
「リュシエンヌ様!」

 うまく立つことができず私はそのまま倒れ込んでしまった。それをみたルリが駆け寄ってくきた。どうしよう、本当にこれじゃ身動きが取れない。だからと言ってルリに抱えられたまま伺うのも失礼だし。

「ごめんなさい、歩けないみたいだからレオン様をここに呼んでもらってもいいかしら。それとアルも来たらここにお願い」
「かしこまりました。では私が行ってまいりますのでリュシエンヌ様は大人しくしていてくださいね!」
「わかってるよ」

 ルリに抱えられて、ベッドの上に戻された私はルリを送り出した。婚約者と私室で二人きりになることすら今の歳では問題だが、今の私の状態だ。致し方ない。ルリを待っている中ふと私はおもった。ルリにも話を聞いてもらいたい、と。今も前もずっと私の一番信頼している人だ。だから、私がこれからどんなふうになっていってしまうのか知ってほしい。戻ってきたら、ルリに提案してみよう。

「リュシエンヌ様、お連れいたしました。第三王子殿下もご一緒です」

 私は部屋に入ることを了承した。あ、アルに謝らなければ。扉を開けて見えた顔を見て思い出した。

「アル、この間は大っ嫌いなんていってごめん」

 部屋に入ってから一番最初に口を開いたのがそれだった。扉の近くにいる三人がぽかんとしているのが見えた。順番を間違えてしまった。最初に挨拶しなきゃいけなかったのに。ちょっと反省して俯いていると、アルが近づいてきた。

「全然怒っていないから大丈夫」

 そう言いながら頬を触る。なんだろう、すごく手慣れている気がする。

「リュシエンヌさま、私は出ていきますね?」

 恐る恐るルリが話し始めた。ドアノブにもう手をかけてしまっている。私は慌てて声をかけた。

「ダメッ!ルリもレオン様の話いっしょに聞いて?」

 そう伝えると、ルリは疑問を浮かべながらも部屋に留まってくれた。

「えっと、魔法の授業ですよね?なら私は素質がないので聞いても意味ないと思うのですが」

 そうだ、そうやって嘘ついていたんだった。もう隠す必要はないよね。

「それ、嘘なの。本当はもっと違う話。私についての話なの」

 そういうと意味がわからないといった顔をされた。それはそうだよね。私についての話なのになんでレオン様のことを呼ぶんだってなるもの。

「レオン様、もう演技はやめにしましょう」

 部屋に入ってきてからずっと棒立ちしていたレオン様に話しかけた。するとその固く張った表情筋がフッと緩んだ。
 
「リュシエンヌ、今回はだいぶ面白そうだな」




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