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怪我と過去※残虐描写あり
しおりを挟む「――いたッ」
公爵夫人は私目掛けて、テーブルの上の花瓶を花ごと投げつけてきた。私にぶつかり勢いがなくなった花瓶は足元に落ちて砕け散った。その破片がどうやら足を傷つけたようだった。ガラス、ということで軽く刺さってしまっている。これはかなり痛いし、すぐに取らないと。一番大きいガラスを取り、痛みに耐えながら私はすぐに部屋から出た。
「りゅ、リュシエンヌ様!?」
廊下を歩いていたルリに偶然出会った。すぐに私の置かれている状況を理解したようだ。私が話そうとする前に、ルリは私のことを抱き上げて走り始めた。
「ルリ、ごめん。ありがとう」
「お礼は後でいいです。とりあえず早く止血をしましょう」
部屋に着き私をルリはベッドに置いた。置いてあったタオルを手に取り私の足の根元に近い方向で強く結んだ。
「キツく結んでいますが少しだけ我慢してください」
颯爽とルリは部屋を出ていき、消毒液、ティッシュ、何枚かのタオル、ピンセットを持って帰ってきた。
「これから細かいガラスを取らせていただきます。痛いですが頑張ってください」
私がさっきガラスを取った傷口にまだ軽く破片が残っていたようだ。ルリは傷口に消毒液をかけた。染みて痛い。体をびくんとして痛みに反応した。心配した表情をルリはするが続けてと合図を出すとガラスの破片を1つずつ取り出し始めた。ピンセットが傷に触れるたび全身が痺れた。全て取り終えた後、血がダラダラと出る傷口をタオルで強く押さえつけた。
「少しだけ、こうさせていただきます」
どうやら止血をしているらしい。ルリが必死に傷を押さえつけてくれているのを感じる。どうやらなかなかに血が止まらない。
「リュシエンヌ様そのまま体を横にしていただいて、足を上げさせてください」
その体制になると、ドレスの中が見えてしまう気がするけれどルリの指示に従った方が良さそうだ。ベッドに体を横にさせると頭がだんだんフワーッとしてきた。そしてそのまま意識を手放してしまった。
――――――
「リリア様のことを妬んだ醜い女が!」
そう言って男はリュシエンヌに鞭をふるう。声にならない声でリュシエンヌは嘆いた。だが、その声は男をかりたてるだけだった。
リリア、私の妹。とても可愛い子。髪にお母様を、瞳にお父様を宿した望まれて生まれた子。私とは何もかも真反対。その笑顔もその場所もその存在も、すべて。
「リュシエンヌ様!ご無事ですか?」
そう言って牢屋に囚われたリュシエンヌのまえに現れたのはルリというリュシエンヌの唯一の侍女だった。リュシエンヌの姿を見てルリは非常に安心した。酷い扱いを受けていたが生きていることをしれたから。
「るり、なのね。会いたかったわ」
その言葉をリュシエンヌは放ったが、自分の声とは思えないほどに喉が枯れていた。
「だいぶ喉をやられているようですね。そうだ。これをどうぞ」
ルリは身につけているボロボロの服から飴を取り出した。リュシエンヌはそれを嬉しそうに受け取った。ありがとう、その言葉を発する前に、ルリの首はストンと落ちていた。
「――は?」
その光景をリュシエンヌは受け止められなかった。必死におちた頭を身に寄せる。格子が邪魔で完全には寄せられないが。
「ルリ。ルリ。ルリ?」
もうびくともしないそれは液体を流し続けるだけになっていた。恐る恐るリュシエンヌはルリの表情を見る。
「なんで、なんでそんなにえがおなの……?」
その最期は、愛しく大事な人が自分の飴を大事に持っている場面で終わった。それにとってとても嬉しく儚いものだった。
――――――
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