上 下
19 / 69

怪我と過去※残虐描写あり

しおりを挟む

「――いたッ」

 公爵夫人は私目掛けて、テーブルの上の花瓶を花ごと投げつけてきた。私にぶつかり勢いがなくなった花瓶は足元に落ちて砕け散った。その破片がどうやら足を傷つけたようだった。ガラス、ということで軽く刺さってしまっている。これはかなり痛いし、すぐに取らないと。一番大きいガラスを取り、痛みに耐えながら私はすぐに部屋から出た。

「りゅ、リュシエンヌ様!?」

 廊下を歩いていたルリに偶然出会った。すぐに私の置かれている状況を理解したようだ。私が話そうとする前に、ルリは私のことを抱き上げて走り始めた。

「ルリ、ごめん。ありがとう」
「お礼は後でいいです。とりあえず早く止血をしましょう」

 部屋に着き私をルリはベッドに置いた。置いてあったタオルを手に取り私の足の根元に近い方向で強く結んだ。

「キツく結んでいますが少しだけ我慢してください」

 颯爽とルリは部屋を出ていき、消毒液、ティッシュ、何枚かのタオル、ピンセットを持って帰ってきた。

「これから細かいガラスを取らせていただきます。痛いですが頑張ってください」

 私がさっきガラスを取った傷口にまだ軽く破片が残っていたようだ。ルリは傷口に消毒液をかけた。染みて痛い。体をびくんとして痛みに反応した。心配した表情をルリはするが続けてと合図を出すとガラスの破片を1つずつ取り出し始めた。ピンセットが傷に触れるたび全身が痺れた。全て取り終えた後、血がダラダラと出る傷口をタオルで強く押さえつけた。

「少しだけ、こうさせていただきます」

 どうやら止血をしているらしい。ルリが必死に傷を押さえつけてくれているのを感じる。どうやらなかなかに血が止まらない。

「リュシエンヌ様そのまま体を横にしていただいて、足を上げさせてください」

 その体制になると、ドレスの中が見えてしまう気がするけれどルリの指示に従った方が良さそうだ。ベッドに体を横にさせると頭がだんだんフワーッとしてきた。そしてそのまま意識を手放してしまった。



 



――――――

 「リリア様のことを妬んだ醜い女が!」

 そう言って男はリュシエンヌに鞭をふるう。声にならない声でリュシエンヌは嘆いた。だが、その声は男をかりたてるだけだった。

 リリア、私の妹。とても可愛い子。髪にお母様を、瞳にお父様を宿した望まれて生まれた子。私とは何もかも真反対。その笑顔もその場所もその存在も、すべて。

「リュシエンヌ様!ご無事ですか?」

 そう言って牢屋に囚われたリュシエンヌのまえに現れたのはルリというリュシエンヌの唯一の侍女だった。リュシエンヌの姿を見てルリは非常に安心した。酷い扱いを受けていたが生きていることをしれたから。

「るり、なのね。会いたかったわ」
 
 その言葉をリュシエンヌは放ったが、自分の声とは思えないほどに喉が枯れていた。

「だいぶ喉をやられているようですね。そうだ。これをどうぞ」
 
 ルリは身につけているボロボロの服から飴を取り出した。リュシエンヌはそれを嬉しそうに受け取った。ありがとう、その言葉を発する前に、ルリの首はストンと落ちていた。

「――は?」

 その光景をリュシエンヌは受け止められなかった。必死におちた頭を身に寄せる。格子が邪魔で完全には寄せられないが。

「ルリ。ルリ。ルリ?」

 もうびくともしないそれは液体を流し続けるだけになっていた。恐る恐るリュシエンヌはルリの表情を見る。

「なんで、なんでそんなにえがおなの……?」

 その最期は、愛しく大事な人が自分の飴を大事に持っている場面で終わった。それにとってとても嬉しく儚いものだった。

 ――――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

処理中です...